原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
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於是其弟。 | ここにその弟、 | そこでその弟が |
泣患居 海邊之時。 |
泣き患へて 海邊うみべたにいましし時に、 |
海邊に出て 泣き患うれえておられた時に、 |
鹽椎神 來問曰。 |
鹽椎しほつちの神 來て問ひて曰はく、 |
シホツチの神が 來て尋ねるには、 |
何 虛空津日高之 泣患所由。 |
「何いかにぞ 虚空津日高そらつひこの 泣き患へたまふ所由ゆゑは」 と問へば、 |
「貴い御子樣みこさまの 御心配なすつていらつしやるのは どういうわけですか」 と問いますと、 |
答言。 | 答へたまはく、 | 答えられるには、 |
我與兄易鉤而。 | 「我、兄と鉤つりばりを易へて、 | 「わたしは兄と鉤を易えて |
失其鉤。 | その鉤を失ひつ。 | 鉤をなくしました。 |
是乞其鉤 故雖償多鉤 不受。 |
ここにその鉤を乞へば、 多あまたの鉤を償へども、 受けずて、 |
しかるに鉤を求めますから 多くの鉤を償つぐないましたけれども 受けないで、 |
云猶欲得 其本鉤。 |
なほその本の鉤を得むといふ。 | もとの鉤をよこせと言います。 |
故泣患之。 |
かれ泣き患ふ」 とのりたまひき。 |
それで泣き悲しむのです」 と仰せられました。 |
訳註によれば、鹽椎神(しほつちのかみ)は「海水の神靈。諸國の海岸にうち寄せるので物知りだとする」。
しかし言葉の上からは、鹽は塩。椎は土に掛ける。つまり海底の神。直後に出てくる綿津見の神(海神)自身。
綿津見神は禊払の段で「底津綿津見神」「中津綿津見神」「上津綿津見神」とされるが、塩土なので最初の海底の神。
だから次の段で一見地上の話のようにしつつ、海底の話をしている。
訳者は地上を想定しているが、続く魚たちを集める話からも違う。そもそも海神が地上にいると見るのが無理。
それとも海神や魚は、話す時に地上にあがるのだろうか。
「若渡海中時 無令惶畏」(海中を渡る時にこわがらせ申すなと言つて)
この表現が、海神の使の一尋和邇の所で出てくるのはどういう意味か。
そういう意味。