原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
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然後者。 | 然れども後には、 | しかしながら後には |
雖恨 其伺情。 |
その伺見かきまみたまひし 御心を恨みつつも、 |
窺見のぞきみなさつた 御心を恨みながらも |
不忍 戀心。 |
戀こふる心に え忍あへずして、 |
戀しさに お堪えなさらないで、 |
因治養 其御子之縁。 |
その御子を 養ひたしまつる縁よしに因りて、 |
その御子を 御養育申し上げるために、 |
附 其弟 玉依毘賣而。 |
その弟いろと 玉依毘賣に 附けて、 |
その妹の タマヨリ姫を差しあげ、 それに附けて |
獻歌之。 | 歌獻りたまひき。 | 歌を差しあげました。 |
其歌曰。 | その歌、 | その歌は、 |
阿加陀麻波 袁佐閇比迦禮杼 | 赤玉は 緒さへ光ひかれど、 | 赤い玉は 緒おまでも光りますが、 |
斯良多麻能 岐美何余曾比斯 | 白玉の 君が裝よそひし | 白玉のような 君のお姿は |
多布斗久阿理祁理 | 貴くありけり。 | 貴たつといことです。 |
爾其 比古遲。 〈三字以音〉 |
かれその 日子 ひこぢ |
そこでその 夫の君が |
答歌曰。 | 答へ歌よみしたまひしく、 | お答えなさいました歌は、 |
意岐都登理 加毛度久斯麻邇 | 奧おきつ鳥 鴨著どく島に | 水鳥みずとりの鴨かもが 降おり著つく島で |
和賀韋泥斯 伊毛波和須禮士 | 我が率寢ゐねし 妹は忘れじ。 | 契ちぎりを結んだ 私の妻は忘れられない。 |
余能許登碁登邇 | 世の盡ことごとに。 | 世の終りまでも。 |
赤玉(阿加陀麻)は赤ん坊の意味。
続く緒はヘソの緒だが、玉とかかる玉の緒は、魂の糸(シルバーコード)という意味。なので光るとする。
いわば無垢という意味。その暗示で白につなげる。
しかし逆接でつなげるので、そちらは無垢ではない。赤(垢・血)にまみれている。
白玉(斯良多麻)は色んな解釈ができるが、歌用語として素直な解釈は、白玉→露→涙。これが基本。これを前段と掛けて涙が光る。
白玉のような容姿という訳注がされているが、それでは全く意味不明。雪だるまか。
赤と対置させた白の文脈なので、覗いたあなたは幼いが、それでも泣いたのは貴いことだと言っている(これまでのように野蛮なことをしなかった)。
もちろん著者の皮肉。
二つの目の歌は文面通り。
しかし最後の「世のことごと(余能許登碁登)」とは、何につけてもと見るのが素直。
「ことごと」に終わりという意味があるか。ないだろう。むしろ、事々・悉くの意味。
それに当てているのが、兄のホオリを苦しめた時の「惚苦」。
そこでは潮乾く玉を用い、困っている兄を救い、悉く苦しめたという一見不明の文脈だった。
救ったのに苦しめたとはこれいかに。
これは血も涙もない方法で救った(乾いた玉で=高利で金を貸した)という意味。
血と涙が赤玉と白玉とパラレルになり、泣く涙を貴いという解釈の妥当性が裏づけられる。
あんたも涙することもあるんだね(世の泣いている人々のことも、ちょっとは考えなさい)、という意味。
もちろん取った税で生活する帝の系譜へのあてつけ。血も涙もないに掛かるのは、本来は重税。
それが他人の幸せを使い込んで無くし、何もせず過ごし、返すどころか相手をさらに貧しくさせて服従させるホオリの描写。まさに血も涙もない。
しかも泣いたのは自分が唾をつけた女のため(玉に唾をつけた)、それでも貴い進歩という、これが慈悲。
こうしないと残せなかったともいえるが、時は移り、今は苦心して小細工をする必要もないし、配慮も効果がないというのに十二分な時間は過ぎた。