原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
---|---|---|
是以備如 海神之 教言。 |
ここを以ちてつぶさに 海わたの神の 教へし言の如、 |
かくして悉く 海神の 教えた通りにして |
與其鉤。 | その鉤を與へたまひき。 | 鉤を返されました。 |
故自爾以後。 | かれそれより後、 | そこでこれより |
稍兪貧。 | いよよ貧しくなりて、 | いよいよ貧しくなつて |
更起荒心 迫來。 |
更に荒き心を起して 迫め來く。 |
更に荒い心を起して 攻めて來ます。 |
將攻之時。 | 攻めむとする時は、 | 攻めようとする時は |
出鹽盈珠而令溺。 | 鹽盈つ珠を出して溺らし、 | 潮の盈ちる珠を出して溺らせ、 |
其愁請者。 | それ愁へまをせば、 | あやまつてくる時は |
出鹽乾珠而救。 | 鹽乾る珠を出して救ひ、 | 潮の乾る珠を出して救い、 |
如此令惚苦之時。 | かく惚苦たしなめたまひし時に、 | 苦しめました時に、 |
稽首白。 | 稽首のみ白さく、 | おじぎをして言うには、 |
僕者自今以後。 | 「僕あは今よ以後のち、 | 「わたくしは今から後、 |
爲汝命之 晝夜 守護人而 仕奉。 |
汝が命の 晝夜よるひるの 守護人まもりびととなりて 仕へまつらむ」 とまをしき。 |
あなた樣の 晝夜の 護衞兵となつて お仕え申し上げましよう」 と申しました。 |
故至今。 | かれ今に至るまで、 | そこで今に至るまで |
其溺時之。 | その溺れし時の |
隼人はやとは その溺れた時の |
種種之態不絶。 | 種種の態わざ、 | しわざを演じて |
仕奉也。 | 絶えず仕へまつるなり。 | お仕え申し上げるのです。 |
二つの玉の下りは、綿津見大神がそれを授けた時の説明とほぼ同じ。
前段の溺れさせて苦しめるのは、物理的な苦しみと見れる。
しかし後段の「其愁請者。出鹽乾珠而救(それが憂いを請うて来た時は、塩乾く玉で救い)」、「令惚苦(悉く苦しめて)」とはどういうことか。
「惚苦」は、ことごと苦と掛けた音の当て字。
救っているはずなのに、苦しめる。
これは(血も)涙もない方法で救ったという意味。つまり重い利息をつけた。玉=金。
それで奴隷にした(強いて従わせた)という表現。しかもその元手は自分の玉ではない。
つまりヤマトの統治に(人格的)正統性を認めていない。それは一貫している。人格的に称えた話が一つもなく終始野蛮。仁徳ですらそれに掛けた諫言。
生活に困ったら金を借りろというのは、この国の基本方針。
既に困って必要なのだからさらに返しようがない。金は極力もたせない。絶妙に家賃生活相場スレスレに設定し、死ぬまで働かせようとするのも基本方針。
実入りの相場も自分達で操作し、最低限の生活維持に金を求める仕組みにする以上、意に沿わぬ労働でも強要し、正当化することができる。
決めさえすれば異論は認めない。それが決まりだ。それが野蛮。労働の本質が強要だから生産的ではない。だから金がないない言い続ける。
周囲に極力価値を認めず与えず、一方的に求め続ける。
自分達しか持とうとしないから、全体の価値が増えていかない。
それすらわからないのが貧しさ。与えられたパイを取り合い続ける。余計にあってもあげない。余裕をもたせたら、黙って言うこときかせられなくなる。
そうして自分達だけで囲って、一部のみ肥え、全体は貧弱、それにこびへつらう地獄絵図。