原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
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是天津 日高日子 波限建 鵜葺草 葺不合命。 |
この天つ 日高日子 波限建 鵜葺草 葺合へずの命、 |
アマツ ヒコヒコ ナギサタケ ウガヤ フキアヘズの命は、 |
娶其姨。 玉依毘賣命。 |
その姨みをば 玉依毘賣の命に娶ひて、 |
叔母の タマヨリ姫と結婚して |
生御子名。 | 生みませる御子の名は、 | お生みになつた御子の名は、 |
五瀨命。 | 五瀬の命、 | イツセの命・ |
次 稻氷命。 |
次に稻氷 いなひの命、 |
イナヒの命・ |
次 御毛沼命。 |
次に御毛沼 みけぬの命、 |
ミケヌの命・ |
次 若御毛沼命。 |
次に若御毛沼 わかみけぬの命、 |
ワカミケヌの命、 |
亦名 豐御毛沼命。 |
またの名は 豐御毛沼 とよみけぬの命、 |
またの名は トヨミケヌの命、 |
亦名 神倭 伊波禮毘古命。 |
またの名は 神倭 伊波禮毘古 かむやまと いはれびこの命 |
またの名は カムヤマト イハレ彦の命の |
〈四柱〉 | 四柱。 | 四人です。 |
故 御毛沼命者。 |
かれ 御毛沼の命は、 |
ミケヌの命は |
跳波穗。 | 波の穗を跳ふみて、 | 波の高みを蹈んで |
渡坐于 常世國。 |
常世の國に 渡りまし、 |
海外の國へと お渡りになり、 |
稻氷命者。 | 稻氷の命は、 | イナヒの命は |
爲妣國而。 | 妣ははの國として、 | 母の國として |
入坐 海原也。 |
海原に 入りましき。 |
海原に おはいりになりました。 |
ここでの「神倭伊波禮毘古命」が神武天皇(続く中巻先頭の神武天皇とされる段にある最初の言葉)。
「常世國」を訳は一貫して海外としているが、これは霊的な世界という意味(黄泉=地獄ではなく、天の霊的世界)。
それは「八百萬神。天安之河原。神集集而。高御產巢日神之子思金神令思而。集常世」とあることからも明らか。言葉の一般の理解もそう。
これに対し、母の国とされるここでの「海原」は、起源たるイザナミの文脈を受けて、黄泉に近い意味。
だから上下の文脈になっている(波を踏むと、海に入る)。
いずれも死についての記述だが、行き先が違う。