原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
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於是八百萬神 共議而。 |
ここに八百萬の神 共に議はかりて、 |
ここで神樣たちが 相談をして |
於速須佐之男命。 | 速須佐の男の命に | スサノヲの命に |
負千位置戶。 | 千座ちくらの置戸おきどを負せ、 |
澤山の品物を出して 罪を償つぐなわしめ、 |
亦切鬚。 | また鬚ひげと手足の爪とを切り、 | また鬚ひげと |
及手足爪令拔而。 | 祓へしめて、 | 手足てあしの爪とを切つて |
神夜良比 夜良比岐。 |
神逐かむやらひ 逐ひき。 |
逐いはらいました。 |
スサノヲの命は、 かようにして天の世界から逐おわれて、 下界げかいへ下くだつておいでになり、 |
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又食物乞 大氣津比賣神。 |
また食物をしものを 大氣都比賣 おほげつひめの神に 乞ひたまひき。 |
まず食物を オホゲツ姫の神に お求めになりました。 |
爾大氣都比賣。 | ここに大氣都比賣、 | そこでオホゲツ姫が |
自鼻口及尻。 | 鼻口また尻より、 | 鼻や口また尻しりから |
種種味物取出而。 | 種種の味物ためつものを取り出でて、 | 色々の御馳走を出して |
種種作具而。 | 種種作り具へて進たてまつる時に、 | 色々お料理をしてさし上げました。 |
進時。 | この時に | |
速須佐之男命。 | 速須佐の男の命、 | スサノヲの命は |
立伺其態。 | その態しわざを立ち伺ひて、 | そのしわざをのぞいて見て |
以爲 穢汚而奉進。 |
穢汚きたなくして奉る とおもほして、 |
穢きたないことをして食べさせる とお思いになつて、 |
乃殺 其大宜津比賣神。 |
その大宜津比賣 おほげつひめの神を 殺したまひき。 |
そのオホゲツ姫の神を 殺してしまいました。 |
故所殺神於身 生物者。 |
かれ殺さえましし神の身に 生なれる物は、 |
殺された神の身體に 色々の物ができました。 |
於頭生蠶。 | 頭に蠶こ生り、 | 頭あたまに蠶かいこができ、 |
於二目生稻種。 | 二つの目に稻種いなだね生り、 | 二つの目に稻種いねだねができ、 |
於二耳生粟。 | 二つの耳に粟生り、 | 二つの耳にアワができ、 |
於鼻生小豆。 | 鼻に小豆あづき生り、 | 鼻にアズキができ、 |
於陰生麥。 | 陰ほとに麥生り、 | 股またの間あいだにムギができ、 |
於尻生大豆。 | 尻に大豆まめ生りき。 | 尻にマメが出來ました。 |
故是 神產巢日御祖命。 |
かれここに 神産巣日かむむすび 御祖みおやの命、 |
カムムスビの命が、 |
令取茲。 | こを取らしめて、 | これをお取りになつて |
成種。 | 種と成したまひき。 | 種となさいました。 |
オホゲツヒメ(大宜津比賣→大月姫・大尻姫) は、アマテラスを裏返したような存在(ゲツ・月⇔太陽。ケツ=尻・下品)。
この神は「粟國謂大宜都比賣」と掛かる。耳の粟は阿波、鼻の小豆は小豆島。いずれもイザナギ・イザナミの国生み②で出てくる。
したがって、ここでの舞台も素直に見れば四国(二目+二耳)。
神の名は天照のように象徴的な意味がある(命)。
スサノオは、天照の所を糞で汚した(田を壊し、食事所を汚した)、糞を食らうはめになった。
目には目を。同じ目を。糞には糞を。歯は言葉。神は自分の言動を鏡のようにして報いる(還し矢)。
最後に突然出てきた、神ムスビ(造化三神)がオオケツ姫の肢体を種にした(成種)のは、次に生かす(転生)という意味。糞でも肥しに、糧にして生きる、それが摂理の哲学。文明が発達すれば糞と糧は抽象化される。
死体の頭にカイコができたというのは、醜いけど綺麗な思い。目にイナダネ、鼻に小豆・尻の大豆は、顔のソバカスや、体各所の赤いブツブツで、全く良い表現ではないが、考えることは綺麗だった。そういう些細なことを神は美しいと思って手にとり報いるという。