原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
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天照大御神。 | 天照らす大御神の | 天照らす大神が |
坐 忌服屋而。 |
忌服屋いみはたやに ましまして |
清らかな機織場はたおりばに おいでになつて |
令織 神御衣之時。 |
神御衣かむみそ 織らしめたまふ時に、 |
神樣の御衣服おめしものを 織らせておいでになる時に、 |
穿其服屋之頂。 | その服屋はたやの頂むねを穿ちて、 | その機織場の屋根に穴をあけて |
逆剥 天斑馬剥而。 |
天の斑馬むちこまを 逆剥さかはぎに剥ぎて |
斑駒まだらごまの 皮をむいて |
所墮入時。 | 墮し入るる時に、 | 墮おとし入れたので、 |
天衣織女見驚而。 | 天の衣織女みそおりめ見驚きて | 機織女はたおりめが驚いて |
於梭衝陰上 而死。 〈訓陰上云富登〉 |
梭ひに 陰上ほとを衝きて 死にき。 |
機織りに使う板で 陰ほとをついて 死んでしまいました。 |
故於是 天照大御神見畏。 |
かれここに 天照らす大御神見み畏かしこみて、 |
そこで 天照らす大神もこれを嫌つて、 |
閇天石屋戶而。 | 天の石屋戸いはやどを開きて | 天あめの岩屋戸いわやとをあけて |
刺許母理〈此三字以音〉坐也。 | さし隱こもりましき。 | 中にお隱れになりました。 |
爾 高天原皆暗。 |
ここに 高天たかまの原皆暗く、 |
それですから 天がまつくらになり、 |
葦原中國悉闇。 |
葦原あしはらの中つ國 悉に闇し。 |
下の世界も ことごとく闇くらくなりました。 |
因此而常夜往。 | これに因りて、常夜とこよ往く。 | 永久に夜が續いて行つたのです。 |
於是萬神之聲者。 | ここに萬よろづの神の聲おとなひは、 | そこで多くの神々の騷ぐ聲は |
狹蠅那須 〈此二字以音〉 皆滿。 |
さ蠅ばへなす 滿ち、 |
夏の蠅のように いつぱいになり、 |
萬妖悉發。 |
萬の妖わざはひ 悉に發おこりき。 |
あらゆる妖わざわいが すべて起りました。 |