古事記~根の国④逃亡と承認  原文対訳

根の国③ 古事記
上巻 第三部
大国主の物語
根の国④
逃亡と承認
ヤガミ姫の恐れ
原文 書き下し
(武田祐吉)
現代語訳
(武田祐吉)
爾握其大神之髮。 ここにその神の髮を握とりて、 そこでその大神の髮を握とつて
其室每椽
結著而。
その室の椽たりきごとに
結ひ著けて、
その室の屋根のたる木ごとに
結いつけて、
五百引石。 五百引いほびきの石いはを、 大きな巖を
取塞其室戶。 その室の戸に取り塞さへて、 その室の戸口に塞いで、
負其妻
須世理毘賣。
その妻みめ
須世理毘賣を負ひて、
お妃の
スセリ姫を背負せおつて、
即取持其大神之
生大刀與生弓矢。
すなはちその大神の
生大刀いくたちと生弓矢いくゆみや
その大神の寶物の
大刀たち弓矢ゆみや、
及其天詔琴而。 またその天の沼琴ぬごとを取り持ちて、 また美しい琴を持つて
逃出之時。 逃げ出でます時に、 逃げておいでになる時に、
其天沼琴拂樹而。 その天の沼琴樹に拂ふれて その琴が樹にさわつて
地動鳴。 地動鳴なりとよみき。 音を立てました。
     
故。其所
寢大神。
かれその
寢みねしたまへりし大神、
そこで
寢ておいでになつた大神が
聞驚而。 聞き驚かして、 聞いてお驚きになつて
引仆其室。 その室を引き仆たふしたまひき。 その室を引き仆してしまいました。
然解結椽髮
之間。
然れども椽に結へる
髮を解かす間に
しかしたる木に結びつけてある
髮を解いておいでになる間に
遠逃。 遠く逃げたまひき。 遠く逃げてしまいました。
     
故爾
追至
黃泉比良坂。
かれここに
黄泉比良坂
よもつひらさかに
追ひ至りまして、
そこで
黄泉比良坂
よもつひらさかまで
追つておいでになつて、
遙望。 遙はるかに望みさけて、 遠くに見て
呼。謂
大穴牟遲神曰。
大穴牟遲おほあなむぢの神を
呼ばひてのりたまはく、
大國主の命を
呼んで仰せになつたには、
其汝所持之
生大刀。
生弓矢以而。
「その汝が持てる
生大刀
生弓矢もちて
「そのお前の持つている
大刀や
弓矢を以つて、
汝庶兄弟者。 汝が庶兄弟あにおとどもをば、 大勢の神をば
追伏坂之御尾。 坂の御尾に追ひ伏せ、 坂の上に追い伏せ
亦追撥河之瀨而。 また河の瀬に追ひ撥はらひて、 河の瀬せに追い撥はらつて、
意禮〈二字以音〉
爲大國主神。
おれ
大國主の神となり、
自分で
大國主の命となつて
亦爲
宇都志國玉神而。
また宇都志國玉
うつしくにたまの神となりて、
 
其我之女
須世理毘賣。
その我が女
須世理毘賣を
そのわたしの女むすめの
スセリ姫を
爲嫡妻而。 嫡妻むかひめとして、 正妻として、
於宇迦能山
〈三字以音〉之山本。
宇迦うかの山の山本に、 ウカの山の山本に
於底津石根。 底津石根そこついはねに 大磐石だいばんじやくの上に
宮柱布刀斯理
〈此四字以音〉
宮柱太しり、 宮柱を太く立て、
於高天原。 高天の原に 大空に高く
冰椽多迦斯理
〈此四字以音〉而居。
氷椽ひぎ高しりて
居れ。
棟木むなぎを上げて
住めよ、
是奴也。 この奴やつこ」とのりたまひき。 この奴やつめ」と仰せられました。
     
故持其大刀。弓。 かれその大刀弓を持ちて、 そこでその大刀弓を持つて
追避其八十神之時。 その八十神を追ひ避さくる時に、 かの大勢の神を追い撥はらう時に、
每坂御尾追伏。 坂の御尾ごとに追ひ伏せ、 坂の上毎に追い伏せ
每河瀨追撥而。 河の瀬ごとに追ひ撥ひて 河の瀬毎に追い撥はらつて
始作國也。 國作り始めたまひき。 國を作り始めなさいました。
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ヤガミ姫の恐れ