原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
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爾握其大神之髮。 | ここにその神の髮を握とりて、 | そこでその大神の髮を握とつて |
其室每椽 結著而。 |
その室の椽たりきごとに 結ひ著けて、 |
その室の屋根のたる木ごとに 結いつけて、 |
五百引石。 | 五百引いほびきの石いはを、 | 大きな巖を |
取塞其室戶。 | その室の戸に取り塞さへて、 | その室の戸口に塞いで、 |
負其妻 須世理毘賣。 |
その妻みめ 須世理毘賣を負ひて、 |
お妃の スセリ姫を背負せおつて、 |
即取持其大神之 生大刀與生弓矢。 |
すなはちその大神の 生大刀いくたちと生弓矢いくゆみや |
その大神の寶物の 大刀たち弓矢ゆみや、 |
及其天詔琴而。 | またその天の沼琴ぬごとを取り持ちて、 | また美しい琴を持つて |
逃出之時。 | 逃げ出でます時に、 | 逃げておいでになる時に、 |
其天沼琴拂樹而。 | その天の沼琴樹に拂ふれて | その琴が樹にさわつて |
地動鳴。 | 地動鳴なりとよみき。 | 音を立てました。 |
故。其所 寢大神。 |
かれその 寢みねしたまへりし大神、 |
そこで 寢ておいでになつた大神が |
聞驚而。 | 聞き驚かして、 | 聞いてお驚きになつて |
引仆其室。 | その室を引き仆たふしたまひき。 | その室を引き仆してしまいました。 |
然解結椽髮 之間。 |
然れども椽に結へる 髮を解かす間に |
しかしたる木に結びつけてある 髮を解いておいでになる間に |
遠逃。 | 遠く逃げたまひき。 | 遠く逃げてしまいました。 |
故爾 追至 黃泉比良坂。 |
かれここに 黄泉比良坂 よもつひらさかに 追ひ至りまして、 |
そこで 黄泉比良坂 よもつひらさかまで 追つておいでになつて、 |
遙望。 | 遙はるかに望みさけて、 | 遠くに見て |
呼。謂 大穴牟遲神曰。 |
大穴牟遲おほあなむぢの神を 呼ばひてのりたまはく、 |
大國主の命を 呼んで仰せになつたには、 |
其汝所持之 生大刀。 生弓矢以而。 |
「その汝が持てる 生大刀 生弓矢もちて |
「そのお前の持つている 大刀や 弓矢を以つて、 |
汝庶兄弟者。 | 汝が庶兄弟あにおとどもをば、 | 大勢の神をば |
追伏坂之御尾。 | 坂の御尾に追ひ伏せ、 | 坂の上に追い伏せ |
亦追撥河之瀨而。 | また河の瀬に追ひ撥はらひて、 | 河の瀬せに追い撥はらつて、 |
意禮〈二字以音〉 爲大國主神。 |
おれ 大國主の神となり、 |
自分で 大國主の命となつて |
亦爲 宇都志國玉神而。 |
また宇都志國玉 うつしくにたまの神となりて、 |
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其我之女 須世理毘賣。 |
その我が女 須世理毘賣を |
そのわたしの女むすめの スセリ姫を |
爲嫡妻而。 | 嫡妻むかひめとして、 | 正妻として、 |
於宇迦能山 〈三字以音〉之山本。 |
宇迦うかの山の山本に、 | ウカの山の山本に |
於底津石根。 | 底津石根そこついはねに | 大磐石だいばんじやくの上に |
宮柱布刀斯理 〈此四字以音〉 |
宮柱太しり、 | 宮柱を太く立て、 |
於高天原。 | 高天の原に | 大空に高く |
冰椽多迦斯理 〈此四字以音〉而居。 |
氷椽ひぎ高しりて 居れ。 |
棟木むなぎを上げて 住めよ、 |
是奴也。 | この奴やつこ」とのりたまひき。 | この奴やつめ」と仰せられました。 |
故持其大刀。弓。 | かれその大刀弓を持ちて、 | そこでその大刀弓を持つて |
追避其八十神之時。 | その八十神を追ひ避さくる時に、 | かの大勢の神を追い撥はらう時に、 |
每坂御尾追伏。 | 坂の御尾ごとに追ひ伏せ、 | 坂の上毎に追い伏せ |
每河瀨追撥而。 | 河の瀬ごとに追ひ撥ひて | 河の瀬毎に追い撥はらつて |
始作國也。 | 國作り始めたまひき。 | 國を作り始めなさいました。 |