原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
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於是八十神見。 | ここに八十神見て | これをまた大勢の神が見て |
且欺 率入山而。 |
また欺きて、 山に率ゐて入りて、 |
欺あざむいて 山に連れて行つて、 |
切伏大樹。 | 大樹を切り伏せ、 | 大きな樹を切り伏せて |
茹矢。 | 茹矢ひめやを | 楔子くさびを |
打立其木。 | その木に打ち立て、 | 打つておいて、 |
令入其中。 | その中に入らしめて、 | その中に大國主の命をはいらせて、 |
即打離 其冰目矢而。 |
すなはちその氷目矢ひめやを 打ち離ちて、 |
楔子くさびを 打つて放つて |
拷殺也。 | 拷うち殺しき。 | 打ち殺してしまいました。 |
爾亦 其御祖命 哭乍求者。 |
ここにまた その御祖、 哭きつつ求まぎしかば、 |
そこでまた 母の神が 泣きながら搜したので、 |
得見。 | すなはち見得て、 | 見つけ出して |
即折其木 而取出活。 |
その木を拆さきて、 取り出で活して、 |
その木を拆さいて 取り出して生いかして、 |
告其子言 | その子に告りて言はく、 | その子に仰せられるには、 |
汝者有此間者。 | 「汝ここにあらば、 | 「お前がここにいると |
遂爲八十神 所滅。 |
遂に八十神に 滅ころさえなむ」といひて、 |
しまいには大勢の神に 殺ころされるだろう」と仰せられて、 |
乃速遣於 木國之 大屋毘古神之御所。 |
木の國の 大屋毘古おほやびこの神の御所みもとに 違へ遣りたまひき。 |
紀伊の國の オホヤ彦の神のもとに 逃がしてやりました。 |
爾八十神 覓追臻而。 |
ここに八十神 覓まぎ追ひ臻いたりて、 |
そこで大勢の神が 求めて追つて來て、 |
矢刺乞時。 | 矢刺して乞ふ時に、 | 矢をつがえて乞う時に、 |
自木俣 漏逃而去。 |
木の俣またより 漏くき逃れて去いにき。 |
木の俣またから ぬけて逃げて行きました。 |
木の俣から逃げていることは、無名の者として転生したことの例え。
これが転生を暗示していることは、パラレルの構造をなす前段参照。
無名の者として生まれたことは、有名になって目にとまったことの裏返し。
木の国で続く根の国とつなげている。紀伊の国なのかは、可能性は高いが、ここだけはそこまで定かではない。
因幡の段から全て、全て欺きから入りヤケドし(痛い目を見る話の例え)、それが原因で大国主が失命する話が続く。
そしてスサノオから認められるということから、大国主は、神々に追放されたスサノオの因縁(カルマ)を継承した存在と見るのが自然。
つまり分身(転生)。天照にしたことの反射効。
神々からいわれがなく迫害されると見るのは、この視点でみれば違う。
なぜか国をまかせられているのは、当初イザナギからの命がそうであったから。その命が続いている。
命をすぐ失い続けるのは、命を無視し続けたから。ウサギ一匹に助言したことが、まず唯一の償い。
自分では何もしていない。むしろ神々の親にずっと世話されている。
御祖(神々の母≒天照≒カミムスビ)が「泣きながら」無事に大丈夫になるよう手間をかける、これが慈悲(カルナ)。
しかし、親は一人ではない。
それで国譲りの段の冒頭で、今度はタカムスビ(神々の父)が突如天照とセットで出てきて、反逆の報いを受けさせている(自分の放った矢で死亡)。