原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
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故其八上比賣者。 | かれその八上比賣は | かのヤガミ姫ひめは |
如先期美刀 阿多波志都。 〈此七字以音〉 |
先の期ちぎりのごとみと あたはしつ。 |
前の約束通りに 婚姻なさいました。 |
故其八上比賣者。 | かれその八上比賣は、 | そのヤガミ姫を |
雖率來。 | 率ゐて來ましつれども、 | 連つれておいでになりましたけれども、 |
畏其嫡妻 須世理毘賣而。 |
その嫡妻むかひめ 須世理毘賣を畏かしこみて、 |
お妃きさきの スセリ姫を恐れて |
其所生子者。 | その生める子をば、 | 生んだ子を |
刺狹木俣 而返。 |
木の俣またに刺し挾みて 返りましき。 |
木の俣またにさし挾んで お歸りになりました。 |
故。名其子云 木俣神。 |
かれその子に名づけて 木の俣の神といふ、 |
ですからその子の名を 木の俣の神と申します。 |
亦名謂 御井神也。 |
またの名は 御井みゐの神といふ。 |
またの名は 御井みいの神とも申します。 |
八上姫とは、因幡の白兎の化身であり、天照の化身。
天照は神ムスビの化身(御祖=みおや)。
白兎が八上姫が結婚することを約束したのは本人だから。
白兎が海の塩にさらされて痛い目にあったのはスサノオに黙って痛めつけられた天照の投影。
天照が高ムスビ(高木)と並んで出てくるので、天照は神ムスビの分霊。
最後の木の俣の子は、前に御祖が泣いて生かした、大国主の無名の転生のこと。
なので生んだ子は大国主本人ともいえるし、大国主お子どもと見ても、どちらにせよ、もう面倒は見ないという暗示。
この下界の様子を受けて、天照も面倒は見ないということになる。天孫降臨で下された子達は、いずれも命に背いた。
天照は自分の子といったが、天照のもっている玉を噛み砕いてそれに息をふきかけて生じさせたのはスサノオ。
もとの玉に愛着があったので、それらをわが子といった。しかしその玉(魂)は、もう原型をとどめていない。
以下は八十神の迫害②(木の国)~根の国の内容。
ここでの木は根の国に対比させた象徴表現で、紀伊の国ということに本意があるのではない。
御祖を母親といっても、字義から直接の母という意味ではない。神々の母。「御祖命」は神ムスビ=天照にしかつかない。
爾亦 其御祖命 哭乍求者。 |
ここにまた その御祖、 哭きつつ求まぎしかば、 |
そこでまた 母の神が 泣きながら搜したので、 |
得見。 | すなはち見得て、 | 見つけ出して |
即折其木 而取出活。 |
その木を拆さきて、 取り出で活して、 |
その木を拆さいて 取り出して生いかして、 |
告其子言 | その子に告りて言はく、 | その子に仰せられるには、 |
汝者有此間者。 | 「汝ここにあらば、 | 「お前がここにいると |
遂爲八十神 所滅。 |
遂に八十神に 滅ころさえなむ」といひて、 |
しまいには大勢の神に 殺ころされるだろう」と仰せられて、 |
乃速遣於 木國之 大屋毘古 神之御所。 |
木の國の 大屋毘古おほやびこの 神の御所みもとに 違へ遣りたまひき。 |
紀伊の國の オホヤ彦の 神のもとに 逃がしてやりました。 |
爾八十神 覓追臻而。 |
ここに八十神 覓まぎ追ひ臻いたりて、 |
そこで大勢の神が 求めて追つて來て、 |
矢刺乞時。 | 矢刺して乞ふ時に、 | 矢をつがえて乞う時に、 |
自木俣 漏逃而去。 |
木の俣またより 漏くき逃れて去いにき。 |
木の俣またから ぬけて逃げて行きました。 |
御祖命 | 御祖の命、 | そこで母の神が |
告子云可參向 | 子に告りていはく、 | 「これは、 |
須佐能男命 所坐之 根堅州國。 |
「須佐の男の命の まします 根ねの堅州かたす國に まゐ向きてば、 |
スサノヲの命の おいでになる 黄泉の國に 行つたなら、 |
必其大神 議也。 |
かならずその大神 議はかりたまひなむ」 とのりたまひき。 |
きつと よい謀はかりごとを して下さるでしよう」 と仰せられました。 |