原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
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爾其 沼河日賣。 |
ここにその 沼河日賣 ぬなかはひめ、 |
そこで、その ヌナカハ姫が、 |
未開戶。 | いまだ戸を開ひらかずて | まだ戸を開あけないで、 |
自内歌曰。 | 内より歌よみしたまひしく、 | 家の内で歌いました歌は、 |
夜知富許能 迦微能美許等 | 八千矛やちほこの神の命 | ヤチホコの神樣、 |
奴延久佐能 賣邇志阿禮婆 | ぬえくさの 女めにしあれば、 | 萎しおれた草のような女のことですから |
和何許許呂 宇良須能登理叙 | 吾わが心 浦渚うらすの鳥ぞ。 | わたくしの心は 漂う水鳥、 |
伊麻許曾婆 和杼理邇阿良米 | 今こそは 吾わ鳥にあらめ。 | 今いまこそわたくし鳥どりでも |
能知波 那杼理爾阿良牟遠 | 後は 汝鳥などりにあらむを、 | 後のちにはあなたの鳥になりましよう。 |
伊能知波 那志勢多麻比曾 | 命は な死しせたまひそ。 | 命いのち長ながくお生いき遊あそばしませ。 |
伊斯多布夜 阿麻波世豆迦比 | いしたふや 天馳使、 | 下におります走り使をする者の |
許登能 加多理碁登母 | 事の語りごとも | 事ことの語かたり傳つたえは |
許遠婆 | こをば。 | かようでございます。 |
阿遠夜麻邇 比賀迦久良婆 | 青山に 日が隱らば、 | 青い山やまに日ひが隱かくれたら |
奴婆多麻能 用波伊傳那牟 | ぬばたまの 夜は出でなむ。 | 眞暗まつくらな夜よになりましよう。 |
阿佐比能 恵美佐加延岐弖 | 朝日の 咲ゑみ榮え來て、 | 朝のお日樣ひさまのようににこやかに來て |
多久豆怒能 斯路岐多陀牟岐 | たくづのの 白き腕ただむき | コウゾの綱のような白い腕、 |
阿和由岐能 和加夜流牟泥遠 | 沫雪の わかやる胸を | 泡雪のような若々しい胸を |
曾陀多岐 多多岐麻那賀理 | そ叩だたき 叩きまながり | そつと叩いて手をとりかわし |
麻多麻傳 多麻傳佐斯麻岐 | 眞玉手 玉手差し纏まき | 玉のような手をまわして |
毛毛那賀爾 伊波那佐牟遠 | 股もも長に 寢いは宿なさむを。 | 足を伸のばしてお休みなさいましようもの。 |
阿夜爾 那古斐支許志 | あやに な戀ひきこし。 | そんなにわびしい思おもいをなさいますな。 |
夜知富許能 迦微能美許登 | 八千矛の 神の命。 | ヤチホコの神樣かみさま。 |
許登能 迦多理碁登母 | 事の語りごとも | 事ことの語かたり傳つたえは、 |
許遠婆 | こをば。 | かようでございます。 |
故其夜者。 不合而。 |
かれその夜は 合はさずて、 |
それで、その夜は お會あいにならないで、 |
明日夜 爲御合也。 |
明日くるつひの夜 御合みあひしたまひき。 |
翌晩 お會あいなさいました。 |