原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
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於是 欲相見 其妹 伊邪那美命。 |
ここに その妹 伊耶那美の命を 相見まくおもほして、 |
イザナギの命は お隱れになつた 女神めがみに もう一度會いたいと思われて、 |
追往 黃泉國。 |
黄泉國 よもつくにに 追ひ往いでましき。 |
後あとを追つて 黄泉よみの國に 行かれました。 |
爾 自殿騰戶。 |
ここに 殿とのの縢くみ戸より |
そこで女神が 御殿の組んである戸から出て |
出向之時。 | 出で向へたまふ時に、 | お出迎えになつた時に、 |
伊邪那岐命。 | 伊耶那岐の命 | イザナギの命みことは、 |
語。 | 語らひて詔りたまひしく、 | |
詔之 愛我那邇妹命。 |
「愛うつくしき 我あが汝妹なにもの命、 |
「最愛の わたしの妻よ、 |
吾與汝 所作之國。 |
吾と汝と 作れる國、 |
あなたと 共に作つた國は |
未作竟。 | いまだ作り竟をへずあれば、 | まだ作り終らないから |
故可還。 |
還りまさね」 と詔りたまひき。 |
還つていらつしやい」 と仰せられました。 |
爾 伊邪那美命 答白。 |
ここに 伊耶那美の命の 答へたまはく、 |
しかるに イザナミの命みことが お答えになるには、 |
悔哉。 | 「悔くやしかも、 | 「それは殘念なことを致しました。 |
不速來。 | 速とく來まさず。 | 早くいらつしやらないので |
吾者爲 黃泉戶喫。 |
吾は 黄泉戸喫 よもつへぐひしつ。 |
わたくしは 黄泉よみの國の 食物を食たべてしまいました。 |
然 愛我那勢命。 〈那勢二字 以音下效此〉 |
然れども 愛しき我が汝 兄なせの命、 |
しかし あなた樣さまが |
入來坐之事 恐故。 |
入り來ませること 恐かしこし。 |
わざわざ おいで下さつたのですから、 |
欲還。 | かれ還りなむを。 |
何なんとかして 還りたいと思います。 |
且與 黃泉神 相論。 |
しまらく 黄泉神よもつかみと 論あげつらはむ。 |
黄泉よみの國の神樣に 相談をして參りましよう。 |
莫 視我。 |
我を な視たまひそ」と、 |
その間 わたくしを御覽になつては いけません」 |
如此白而 還入 其殿内之間。 |
かく白して、 その殿内とのぬちに 還り入りませるほど、 |
とお答えになつて、 御殿ごてんのうちに お入りになりましたが、 |
甚久 難待。 |
いと久しくて 待ちかねたまひき。 |
なかなか 出ておいでになりません。 |