原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
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於其嶋 天降坐而。 |
その島に 天降あもりまして、 |
その島に お降くだりになつて、 |
見立 天之御柱。 |
天あめの御柱みはしらを 見立て |
大きな柱を立て、 |
見立 八尋殿。 |
八尋殿やひろどのを 見立てたまひき。 |
大きな御殿ごてんを お建たてになりました。 |
於是 問其妹 伊邪那美命曰。 |
ここにその妹 伊耶那美いざなみの命に 問ひたまひしく、 |
そこで イザナギの命が、 イザナミの女神に |
汝身者 如何成。 |
「汝なが身は いかに成れる」 と問ひたまへば、 |
「あなたのからだは、 どんなふうにできていますか」と、 |
答曰 | 答へたまはく、 | お尋ねになりましたので、 |
吾身者 成成 不成合 處一處在。 |
「吾わが身は 成り成りて、 成り合はぬところ 一處あり」 とまをしたまひき。 |
「わたくしのからだは、 できあがつて、 でききらない所が 一か所あります」 とお答えになりました。 |
爾 伊邪那岐命 詔。 |
ここに 伊耶那岐いざなぎの命 詔のりたまひしく、 |
そこで イザナギの命の 仰せられるには |
我身者。 | 「我が身は | 「わたしのからだは、 |
成成而 成餘處 一處在。 |
成り成りて、 成り餘れるところ 一處あり。 |
できあがつて、 でき過ぎた所が 一か所ある。 |
故以 此吾身 成餘處。 |
故かれ この吾が身の 成り餘れる處を、 |
だから わたしの でき過ぎた所を |
刺塞汝身 不成合處 而。 |
汝が身の 成り合はぬ處に 刺し塞ふたぎて、 |
あなたの でききらない所にさして |
以爲 生成國土生 奈何。 |
國土くに生み成さむ と思ほすはいかに」 とのりたまへば、 |
國を生み出そうと思うが どうだろう」 と仰せられたので、 |
〈訓生云宇牟。下效此〉 | ||
伊邪那美命 答曰 然善。 |
伊耶那美いざなみの命 答へたまはく、 「しか善けむ」とまをしたまひき。 |
イザナミの命が 「それがいいでしよう」 とお答えになりました。 |
爾 伊邪那岐命。 |
ここに 伊耶那岐の命 |
そこで イザナギの命が |
詔 | 詔りたまひしく、 | |
然者 吾與汝 行廻逢 是天之御柱 |
「然らば 吾あと汝なと、 この天の御柱を 行き廻めぐりあひて、 |
「そんなら わたしとあなたが、 この太い柱を 廻りあつて、 |
而爲 美斗能 麻具波比。 〈此七字以音〉 |
美斗みとの 麻具波比まぐはひせむ」 |
結婚をしよう」 |
とのりたまひき。 | と仰せられて | |
如此云期。 | かく期ちぎりて、 | このように約束して |
乃詔 | すなはち詔りたまひしく、 | 仰せられるには |
汝者自右廻逢。 | 「汝は右より廻り逢へ、 | 「あなたは右からお廻りなさい。 |
我者自左廻逢。 |
我あは左より廻り逢はむ」 とのりたまひて、 |
わたしは左から廻つてあいましよう」 |
約竟 以廻時。 |
約ちぎり竟をへて 廻りたまふ時に、 |
と約束して お廻りになる時に、 |
伊邪那美命。 | 伊耶那美の命 | イザナミの命が |
先言 阿那邇夜志 愛〈上〉袁登古袁。 |
まづ 「あなにやし、 えをとこを」 とのりたまひ、 |
先に 「ほんとうにりつぱな 青年ですね」 といわれ、 |
〈此十字以音下效此〉 | ||
後伊邪那岐命 | 後に伊耶那岐の命 | その後あとでイザナギの命が |
言 阿那邇夜志 愛〈上〉袁登賣袁。 |
「あなにやし、 え娘子をとめを」 とのりたまひき。 |
「ほんとうに 美うつくしいお孃じようさんですね」 といわれました。 |
各言竟之後。 | おのもおのものりたまひ竟をへて後に、 | それぞれ言い終つてから、 |
告其妹曰 | その妹に告のりたまひしく、 | その女神に |
女人 先言不良。 |
「女人を みな先立さきだち言へるはふさはず」 とのりたまひき。 |
「女が 先に言つたのはよくない」 とおつしやいましたが、 |
雖然 久美度邇 〈此四字以音〉 興而。 |
然れども 隱處くみどに 興おこして |
しかし 結婚をして、 |
生子 水蛭子。 |
子みこ 水蛭子ひるこを 生みたまひき。 |
これによつて御子みこ 水蛭子ひるこを お生うみになりました。 |
此子者 入葦船而 流去。 |
この子は 葦船あしぶねに入れて 流し去やりつ。 |
この子は アシの船に乘せて 流してしまいました。 |
次生 淡嶋 |
次に淡島あはしまを 生みたまひき。 |
次に淡島あわしまを お生みになりました。 |
是亦 不入子之例。 |
こも 子の數に入らず。 |
これも 御子みこの數にははいりません。 |