原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
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故爾 伊邪那岐命 詔之。 |
かれここに 伊耶那岐の命の 詔のりたまはく、 |
そこで イザナギの命の 仰せられるには、 |
愛我那邇妹 命乎。 〈那邇二字 以音下效此〉 |
「愛うつくしき 我あが汝妹なにも の命を、 |
「わたしの 最愛の妻を |
謂易 子之一木乎。 |
子の一木ひとつけに 易かへつるかも」 とのりたまひて、 |
一人の子に 代えたのは殘念だ」 と仰せられて、 |
乃匍匐 御枕方。 |
御枕方みまくらべに 匍匐はらばひ |
イザナミの命の 枕の方や |
匍匐 御足方而。 |
御足方みあとべに 匍匐ひて、 |
足の方に 這はい臥ふして |
哭時。 | 哭なきたまふ時に、 | お泣なきになつた時に、 |
於御淚 所成神。 |
御涙に 成りませる神は、 |
涙で 出現した神は |
坐香山之 畝尾 木本。 |
香山かぐやまの 畝尾うねをの 木のもとにます、 |
香具山の 麓の小高い處の 木の下においでになる |
名 泣澤女神。 |
名は 泣澤女 なきさはめの神。 |
泣澤女 なきさわめの神です。 |
故 其所神避之 伊邪那美神者。 |
かれ その神避りたまひし 伊耶那美の神は、 |
この お隱れになつた イザナミの命は |
葬 出雲國與 伯伎國 堺 比婆之山也。 |
出雲の國と 伯伎ははきの國との 堺なる 比婆ひばの山に 葬をさめまつりき。 |
出雲いずもの國と 伯耆ほうきの國との 境にある 比婆ひばの山に お葬り申し上げました。 |
於是 伊邪那岐命。 |
ここに 伊耶那岐の命、 |
ここに イザナギの命は、 |
拔所 御佩之 十拳劔斬 其子 迦具土神之頸。 |
御佩みはかしの 十拳とつかの劒を拔きて、 その子 迦具土かぐつちの神の 頸くびを斬りたまひき。 |
お佩はきになつていた 長い劒を拔いて 御子みこの カグツチの神の 頸くびをお斬りになりました。 |
爾著 其御刀 前之血。 |
ここに その御刀みはかしの 前さきに著ける血、 |
その劒の先に ついた血が |
走就 湯津石村。 |
湯津石村 ゆついはむらに 走たばしりつきて |
清らかな巖いわおに 走りついて |
所成神名 石拆神。 |
成りませる神の名は、 石拆いはさくの神。 |
出現した神の名は、 イハサクの神、 |
次 根拆神。 |
次に 根拆 ねさくの神。 |
次に ネサクの神、 |
次 石筒之男神。 |
次に 石筒 いはづつの男をの神。 |
次に イハヅツノヲの神 であります。 |
〈三神〉 | ||
次著 御刀本血亦 走就 湯津石村。 |
次に 御刀の本に著ける血も、 湯津石村に 走りつきて |
次に その劒のもとの方についた血も、 巖に 走りついて |
所成神名。 | 成りませる神の名は、 | 出現した神の名は、 |
甕速日神。 |
甕速日 みかはやびの神。 |
ミカハヤビの神、 |
次 樋速日神。 |
次に樋速日 ひはやびの神。 |
次に ヒハヤビの神、 |
次 建御雷之男神。 |
次に 建御雷 たけみかづちの男をの神。 |
次に タケミカヅチノヲの神、 |
亦名 建布都神。 〈布都二字 以音下效此〉 |
またの名は 建布都 たけふつの神、 |
またの名を タケフツの神、 |
亦名 豐布都神。 〈三神〉 |
またの名は 豐布都 とよふつの神三神。 |
またの名を トヨフツの神 という神です。 |
次 集御刀之 手上血。 |
次に 御刀の手上たがみに 集まる血、 |
次に 劒の柄に 集まる血が |
自手俣 漏出。 |
手俣たなまたより 漏くき出でて |
手のまたから こぼれ出して |
所成神名。 〈訓漏云久伎〉 |
成りませる 神の名は、 |
出現した 神の名は |
闇淤加美神。 〈淤以下三字 以音下效此〉 |
闇淤加美 くらおかみの神。 |
クラオカミの神、 |
次 闇御津羽神。 |
次に 闇御津羽 くらみつはの神。 |
次に クラミツハの神 であります。 |
上件 | (上の件、 | 以上 |
自石拆神以下。 | 石拆の神より下、 | イハサクの神から |
闇御津羽神 以前。 |
闇御津羽の神 より前、 |
クラミツハの神まで |
并八神者。 | 并はせて八神は、 | 合わせて八神は、 |
因御刀所 生之神者也。 |
御刀に因りて 生りませる神なり。) |
御劒によつて 出現した神です。 |
所殺 迦具土神之於 |
殺さえたまひし 迦具土かぐつちの神の |
殺されなさいました カグツチの神の、 |
頭所 成神名。 |
頭に 成りませる神の名は、 |
頭に 出現した神の名は |
正鹿山〈上〉 津見神。 |
正鹿山津見 まさかやまつみの神。 |
マサカヤマ ツミの神、 |
次 於胸所 成神名。 |
次に 胸に 成りませる神の名は、 |
胸に 出現した神の名は |
淤縢山 津見神。 〈淤縢二字 以音〉 |
淤縢山津見 おとやまつみの神。 |
オトヤマ ツミの神、 |
次 於腹所 成神名。 |
次に 腹に 成りませる神の名は、 |
腹に 出現した神の名は |
奧山〈上〉 津見神。 |
奧山津見 おくやまつみの神。 |
オクヤマ ツミの神、 |
次 於陰所 成神名。 |
次に 陰ほとに 成りませる神の名は、 |
御陰みほとに 出現した神の名は |
闇山 津見神。 |
闇山津見 くらやまつみの神。 |
クラヤマ ツミの神、 |
次 於左手所 成神名。 |
次に 左の手に 成りませる神の名は、 |
左の手に 出現した神の名は |
志藝山 津見神。 |
志藝山津見 しぎやまつみの神。 |
シギヤマ ツミの神、 |
〈志藝二字 以音〉 |
||
次 於右手所 成神名。 |
次に 右の手に 成りませる神の名は、 |
右の手に 出現した神の名は |
羽山 津見神。 |
羽山津美 はやまつみの神。 |
ハヤマ ツミの神、 |
次 於左足所 成神名。 |
次に 左の足に 成りませる神の名は、 |
左の足に 出現した神の名は |
原山 津見神。 |
原山津見 はらやまつみの神。 |
ハラヤマ ツミの神、 |
次 於右足所 成神名。 |
次に 右の足に 成りませる神の名は、 |
右の足に 出現した神の名は |
戶山 津見神。 |
戸山津見 とやまつみの神。 |
トヤマ ツミの神であります。 |
〈自 正鹿山津見神。 |
(正鹿山津見の神より |
マサカヤマ ツミの神から |
至 戶山津見神。 |
戸山津見の神まで |
トヤマ ツミの神まで |
并八神〉 | 并はせて八神。) | 合わせて八神です。 |
故所斬之 刀名。 |
かれ斬りたまへる 刀の名は、 |
そこでお斬りになつた 劒の名は |
謂 天之尾羽張。 |
天の尾羽張をはばり といひ、 |
アメノヲハバリ といい、 |
亦名謂。 | またの名は | またの名は |
伊都之尾羽張 〈伊都二字以音〉 |
伊都いつの尾羽張 といふ。 |
イツノヲハバリ ともいいます。 |