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第46段 うるはしき友 |
伊勢物語 第二部 第47段 大幣 |
第48段 人待たむ里 |
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昔男のことを思う女がいたが、男はどうしようもない男という評判で、どうしようもない思いが募っていた。そこで大要以下の二首。
女「大幣は 引く手あまたで 頼まんて」
男「使い捨てられ 寄せる身もあれ」
大幣とは、棒の先に多数の紙や布をつけたお払いの道具。
この段は、大幣の形をタコにみたてて、女方で女達を助けている男(三助的な縫殿助)が、「仕事で」ひっぱりダコになっていることを笑い話にした内容。
用が済んだら(地方に)流されポイされます(お払い箱)。つまり自虐。第三者の話ではない。女方のことなど、部外者なら描写できるほど知りえない。
冒頭の表現はフェイク。こういうのは初段からままある。明らかに意図的なので、読者の読解力を試している。
だから恋愛の内容ではないし、業平などは全然関係ない。
この歌を業平作とする古今の認定(706-707)は誤り。伊勢が先で、古今が先ではない。
詞書の伊勢部分への異様な偏重、何より伊勢単体で古今をしのぐほどの影響力があること、伊勢自体による業平の否定(65段)など、あげればキリがない。
もはや業平による伊勢の占奪。実際したこともうそう。それが65段の内容。本来資格がないのに女方に入り込んで狼藉を働いた記録。
男女 及び 和歌 |
定家本 |
武田本 (定家系) |
朱雀院塗籠本 (群書類従本) |
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第47段 大幣(おおぬさ) | |||
♂ | むかし、男、 | むかし、おとこ、 | むかしおとこ。 |
懇にいかでと思ふ女ありけり。 | ねむごろにいかでと思女ありけり。 | ねんごろにいかでと思ふ女ありけり。 | |
されど、この男をあだなりと聞きて、 | されど、このおとこをあだなりときゝて、 | されどこの男あだなりときゝて。 | |
つれなさのみまさりつゝいへる。 | つれなさのみまさりつゝいへる。 | つれなさのまさりて。 | |
♪ 87 |
大幣の ひく手あまたになりぬれば |
おほぬさの ひくてあまたになりぬれば |
大幣の ひくてあまたに閒ゆれは |
思へどこそ 頼まざりけれ |
思へどえこそ たのまざりけれ |
思へとえこそ 賴まさりけれ |
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返し、男、 | 返し、おとこ、 | 返し。 | |
♪ 88 |
大幣と 名にこそたてれ流れても |
おほぬさと 名にこそたてれながれても |
大幣と 名に社たてれ流れても |
つひによる瀬は ありといふものを |
つゐによるせは ありといふものを |
つゐによるせは あるてふ物を |
|
むかし、男、懇にいかでと思ふ女ありけり。
されど、この男をあだなりと聞きて、つれなさのみまさりつゝいへる。
むかし男
むかし、男と
懇にいかでと思ふ女ありけり
男と何とかしてネンゴロになりたい(≒寝たい)と思う女があった。
ねんごろ 【懇】
:男女の仲になること。
→16段(紀有常)では、男×男で用いられたが、そちらはふざけ要素満載のギャグ(そうは見られていないが、だから解釈が支離滅裂)。
ただし上の文章も同様。こういう都合の良い話は、基本的に真剣にとらえてはいけない(33段・こもり江参照)。
なにせ元祖の京文化。真面目な内容はもっと包んで表現する。
いかで:
①【如何で】なんとかして(強い願望)
②【行かで】したい(願望)
されどこの男をあだなりと聞きて
しかしこの男の浮気者という評判を聞いて、
あだなり 【徒なり】
①誠実でない。浮気。
②無駄だ。
→19段(天雲のよそ)にある内容。色んなヨソの女にもあまくするんだね、とひがまれた内容。
これは女方内部の話で、業平の話ではない。そちらは65段。
女方内部というのは後述の「頼まざり」という言葉、続く男の歌からもそういえる。つまり仕事場での話。
つれなさのみまさりつゝいへる
どうしようもない気持ちが募った。
つれなし:
ままならない。
→45段の内容(妄想)と符合。
大幣の ひく手あまたに なりぬれば
思へどこそ 頼まざりけれ
返し、男、
大幣と 名にこそたてれ 流れても
つひによる瀬は ありといふものを
大幣の
大幣は
大幣:
棒の先に紙(ここでは多分布)を沢山つけたお祓い道具。使った後は流されるという。
ひく手あまたに
ひく手も沢山
なりぬれば
あるようなので、
思へどこそ
頼もうと思ったが
頼まざりけれ
やっぱやめたw
返し男
大幣と
大幣は、
名にこそたてれ
名を立てても
流れても
使い捨てられて(お払い箱で)
つひによる瀬は
最後に寄る夜の瀬は
ありといふものを
あればいいのだが
つまり男は、女方(縫殿)でのサンスケ的な立ち位置であり(縫殿助)、女達のサポート役をしていたという内容(貴重な歴史の資料ではないか)。
このことが前段で、地方に去った麗しい友(小町)と、近くでずっと一緒にいた(かた時去らずあひ思ひけるを)という文脈
(こちらは女性要素をボカしているので、真剣度は高い)。
だから、冒頭の「女が懇ろ云々」は男の妄想というオチ。
(妄想:異性に対する好き勝手な連想。ここでは自虐・そして読者の頭の体操。前後の文脈を通すよう見て欲しい、というのは初段から一貫する構成。
しかし誰もそんな整合をとらず、ただ滅茶苦茶にして、あげく表現がマズいとか言い出す人もいる)
そしてこの妄想オチの解釈が、
45段の女の「もの言はむ」と「もの病み」をかけ、もの申すと解き、その心は妄想の病とみる根拠になり、本段と相互に根拠づける関係になる。