昔、男に麗しい友がいた。
とても近しかったが、遠く離れてしまったので文を書く。
「情けないけど、もう忘れてないかな」→女々しいのでボツ。
「離れると 忘れる人の 心でも 私は忘れず 面影に見る」→結局女々しかった。
この麗しい友とは小町。
44段の馬の餞で「県へゆく」人、女物の服を贈られた人。それに続けた内容。文脈からも「親密な男友達」ではありえない。
とても近しかった(かた時去らずあひ思ひけり)とは、仕事場が同じで大事にしていたと。縫殿で。二人で恋歌を量産した。
なお、○平は全く無関係。
いやむしろ小町が京を離れる一因を作ったと思われる。
(小町針:変な男達に求婚された話。→竹取物語・求婚者の一人の車持皇子・祈祷した皇子。伊勢65段で女に恋をさせる祈祷をした在原なりける男)
男女 及び 和歌 |
定家本 |
武田本 (定家系) |
朱雀院塗籠本 (群書類従本) |
---|---|---|---|
第46段 うるはしき友 | 欠落 | ||
♂ | むかし、男、 | むかし、おとこ、 | |
いとうるはしき友ありけり。 | いとうるはしきともありけり。 | ||
かた時去らずあひ思ひけるを、 | かた時さらずあひおもひけるを、 | ||
人の国へいきけるを、 | 人のくにへいきけるを、 | ||
いとあはれと思ひて別れにけり。 | いとあはれと思て、わかれにけり。 | ||
月日経ておこせたる文に、 | 月日へてをこせたるふみに、 | ||
あさましく対面せで | あさましくえたいめんせで、 | ||
月日の経にけること。 | 月日のへにけること、 | ||
忘れやし給ひにけむと、 | わすれやしたまひにけむと | ||
いたく思ひわびて なむ侍る。 | いたくおもひわびてなむ侍。 | ||
世の中の人の心は、 | 世中の人の心は、 | ||
目離るれば | めかるれば | ||
忘れぬべきものにこそあめれ。 | わすれぬべきものにこそあれめ、 | ||
といへりければ、よみてやる。 | といへりければ、よみてやる。 | ||
♪ 86 |
目離るとも おもほえなくに忘らるゝ |
めかるとも おもほえなくにわすらるゝ |
|
時しなければ 面影にたつ |
時しなければ おもかげにたつ |
||
むかし、男、いとうるはしき友ありけり。
かた時去らずあひ思ひけるを、人の国へいきけるを、いとあはれと思ひて別れにけり。
むかし男
むかし、男に
いとうるはしき友ありけり
とても麗しい友がいた。
うるはし 【麗し・美し・愛し】
:美しい。綺麗。まれであるほど美しい。
人に用いる場合、よほどの文脈でない限り、女性に用いる。そして以下は完全に女の文脈。
さらにこの物語でこの他の「うるはし」は、24段梓弓の女の子にあてた言葉のみ。そこでの「年を経て」と本段の「月日経て」を合わせて意図している。
親密という意味ではない。語義から離れている。男と読むからそうなる。
そして、ただ「友」とし「友だち」としない時、小町(9段。「もとより友とする人」。三河に誘った六歌仙)。
友は中立。フレンドが異性につけば、特別な一対一の関係。そして「うるわし」は女の属性。友だけや友達ならジャストフレンド。
かた時去らずあひ思ひけるを
片時も離れず、互いに思い合っていたが、
(だからこの表現で男×男はない。単純な可能性としてはともかく、この物語ではない。だから丁寧に女性に当てた表現。
冒頭で女としなかったのは、それだけでは説明できない特別な関係だったから。だから「片時去らず」。
つまり一緒に仕事していた。31段・忘草の「局」や、32段「をだまき(糸巻)」というように、女所の縫殿で。六歌仙の二人。)
人の国へいきけるを
よその国へ行ってしまったので、
この「人」は一般的な他人。自分以外の。44段で女の装束を贈られた「県へゆく」人。
この44段の人を普通、この段同様、冒頭の記述にひっかかり男と解するわけだが、女物の装束・宮中の裳を贈っているのだから、女と解するほかない。
なぜこうなるかというと、一度思い込んだら、後で不都合が生じても省みて修正しない。
無理があっても、何が何でも押し通す。それが業平説。そして業平の性格(65段)。
いとあはれと思ひて別れにけり
とても切ないと思いながら、別れたのであった。
(同じく44段の馬の餞の、送別の内容を参照)
月日経ておこせたる文に、
あさましく対面せで月日の経にけること、忘れやし給ひにけむと、
いたく思ひわびてなむ侍る。
月日経て
数ヶ月たって、
(これが梓弓の歌「年を経て」と符合し「うるはし」が女性とかかる根拠になることは上述)
おこせたる文に
書きおこした(起案)文に、
あさましく
情けない話だが、
あさまし:
驚くばかり、意外。情けない。ひどい。みっともない。
というのも含みがある。この男は21段で、梓弓の子が自分を忘れていないか問うた時に、そんなこと思ってもみなかったと返しているから。
→「いひおこせたる。今はとて 忘るゝ草のたねをだに 人の心に まかせずもがな
返し、忘草 植ふとだに聞くものならば 思ひけりとは 知りもしなまし」
つまり「おこせたる」で符合して、この内容を示唆し、自分は女々しいと。いや、女性がそう思うのはいいが、男の自分から言うのは違う。
さらにここでは「いひ」がつがないことで、自分が起案した内容ということも表わす。
対面せで月日の経にけること
対面しないで、月日が過ぎれば
忘れやし給ひにけむと
忘れてしまわないかと
いたく思ひわびてなむ侍る
とても思い嘆いているところ。と。(やはりこれはボツ。もっと男らしくしなくては)
世の中の人の心は、目離るれば忘れぬべきものにこそあめれ。
といへりければ、よみてやる。
目離るとも おもほえなくに 忘らるゝ
時しなければ 面影にたつ
世の中の人の心は
目離るれば
目離れすれば
めかれ【目離れ】
:目にしないようになること。疎遠になること。
忘れぬべきものにこそあめれ
忘れてしまうようである
といへりければよみてやる
というものだから、詠んでやると。(そういう体裁にして。いや嘘じゃないもの)
目離るとも
離れて見えなくなるとも
おもほえなくに
思われないが
忘らるゝ
忘れられる
時しなければ
時もなくて
面影にたつ
面影が見えるほど
しかし、これはこれで女々しいのであった。
しかるに、この内容を男友達に送るというのは、ない。この物語はそういう内容ではない。