この段は、前段・玉の緒とかけられた玉葛。
むかし、忘れてしまったかと聞いてきた女がいたので、玉葛(つる草)の長さにかけて、もの思う。
相手がそう聞いてきているから、関係は切れていないと思わなくもない、という内容。
そして、この歌は万葉に即しており、玉とかけ定石のやりとりと見る。
加えて、玉かずらのつる草で、きろうとしてもきれない(触手が伸びる)と解く。
その心は、もうかんべんして。
(前段と同じ。だから返してない)
谷狭み 峰に延ひたる 玉葛 絶えむのこころ 我が思はなくに
(万葉集14/3507 )
谷狭み 峯まではへる 玉葛 絶えむと人に わが思はなくに
(伊勢)
谷狭み 嶺辺に延へる 玉葛 延へてしあらば 年に来ずとも
(万葉集12/3067 )
男女 及び 和歌 |
定家本 |
武田本 (定家系) |
朱雀院塗籠本 (群書類従本) |
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第36段 玉葛(玉かづら) | |||
むかし、 | むかし、 | 昔 | |
忘れぬるなめりと | わすれぬるなめりと、 | 忘ぬなめりと。 | |
♀ | 問ひ事しける女のもとに、 | ゝひごとしける女のもとに、 | とひごとしける女のもとに。 |
♪ 70 |
谷せばみ 峯まではへる玉かづら |
たにせばみ ゝねまではへるたまかづら |
谷せはみ 峯まてはへる玉かつら |
絶えむと人に わが思はなくに |
たえむと人に わがおもはなくに |
絕んと人を わか思はなくに |
|
女かへし。 | |||
♪ |
僞と 思ふ物から今さらに |
||
たかまことをか 我はたのまん |
|||
むかし、忘れぬるなめりと問ひ事しける女のもとに、
谷せばみ 峯まではへる 玉かづら
絶えむと人に わが思はなくに
むかし、
むかし
忘れぬるなめりと
私のことをもう忘れたようだねと
なめり
:~のようだ。
問ひ事しける女のもとに、
聞いてきた女のもとに
(ただし、返しとは書いてない)
谷せばみ
谷狭く
峯まではへる 玉かづら
上までのびる 玉かずら
(そちらに行くしかない定め。)
玉葛:つる草。
やたら長いだけで、全然実をむすばない例え。
なお、ここでは女の恋の要素としては用いない。多面的に見る歌の事例研究。
絶えむと人に
その長さが途絶えたかと聞く人に
わが思はなくに
私はそう思わないと
(そう聞いてきているから。
その心は、やはり実を結ばないのか、やっと実を結ぶフラグか。いいや、)
思わなくに:万葉原語は「我不思」
玉葛は実を結びようがないのである。
つまり前段における、沫に緒を結べばという例えと同じ。
最初から不能。あたわず。よってアワず。返さず。返すことあたわず。