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第30段 はつかなりける女 |
伊勢物語 第二部 第31段 忘草 |
第32段 しづのをだまき |
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むかし宮中で、とある女の方の局(部屋)の前を歩いていたところ、何の恨みごとと思われることが聞こえてきた。
「よしや草葉よ ならむさが見む」
→よしなはれ、このク○バ○。んなことするなら同じ目みせたる。
そこで男が、
つみもなき 人をうけへば 忘草 おのがうへにぞ 生ふといふなる
→罪もない人の上に植えるなら 忘草 自分の上にも 生えるというもの。
忘れ草を忘れ癖とかけ、同じ目には同じ生ふ、と解く、その心は、
もし罪のない人を、自分のことも棚に上げて責めるなら、同じ目みるよ。
といえば、妬む女もいたようだ。
(あ、だから自分も自分の罪を忘れているかと。)
罪も無いとか忘れ草とか言っているのは、その人物の日頃の行いを知っているから。
であるから、男=著者は、後宮あたりで働いていた人物。つまり縫殿にいた六歌仙。
それが、次段の苧環(おだまき=糸巻)で裏づけられる。
女所の話は無数に出てくる。「女方」で在原なりける男が暴れたのが、65段。
本段とリンクする後日談が、100段の忘れ草。
むかし男、後涼殿のはさまを渡りければ、あるやんごとなき人の御局より、忘草を忍草とやいふとて
で完全一致。
男女 及び 和歌 |
定家本 |
武田本 (定家系) |
朱雀院塗籠本 (群書類従本) |
---|---|---|---|
第31段 忘草 よしや草葉よ | |||
むかし、 | 昔、 | むかしおとこ。 | |
宮の内にて、 | 宮のうちにて、 | 宮のうちにて。 | |
ある御達の局のまへをわたりけるに、 | あるごたちのつぼねのまへをわたりけるに、 | あるごたちのつぼねのまへをわたるに。 | |
なにのあたにか思ひけむ、 | なにのあたにかおもひけむ、 | なにをあだとかおもひけん。 | |
よしや草葉よ、ならむさが見む | よしやくさばなのならむさが見む、 | よしや草葉のならんさが見ん | |
といふ。 | といふ。 | と。いひければ。 | |
♂ | 男、 | おとこ、 | 男。 |
♪ 64 |
つみもなき 人をうけへば忘草 |
つみもなき 人をうけへばわすれぐさ |
つみもなき 人をうけへは忘草 |
おのがうへにぞ 生ふといふなる |
をのがうへにぞ おふといふなる |
をのか上にそ おふといふなる |
|
といふを、ねたむ女もありけり。 | といふを、ねたむ女もありけり。 | といふを。ねたう女も思ひけり。 | |
むかし、
宮の内にて、ある御達の局のまへをわたりけるに、
なにのあたにか思ひけむ、
よしや草葉よ、ならむさが見むといふ。
むかし、
(塗籠本は「男」を補うが違う。
以下の発言は男ではないと示しているから)
宮の内にて、
(宮中でという意味。
宮とは、ここでは二条。
女がいるから素直にみれば後宮(ハーレム)。
なぜ男がそこにいるかというと、そういう所にまつわる仕事だから。縫殿(→六歌仙)。常にいるから内部に詳しい)
ある御達の局のまへをわたりけるに、
あるご婦人の部屋の前を歩いていると、
御達:身分の高い夫人。
局:部屋。多くはつい立で仕切ったスペース。
なにのあたにか思ひけむ、
何の恨みかと思われる(ことが聞こえてきた)
あた:仇
よしや草葉よ(△の)、ならむさが見む
→よしや、このク○バ○、そんならそういう扱いしたるわ
よしや 【止しや+縦しや】:
①よしなはれ。やめなさい。
②ええいままよ。仕方ない(ここでは、苛立ち)
草葉は、ク○バ○を包んだ言葉。
竹取には、草葉顔(ク○バ○男)という表現がある。つまり著者は同一人物。
「大臣これを見給ひて、 御顔は草の葉の色して居給へり」
なお、このク○バ○発言を著者は諌めているが、これは著者によって既に包まれた表現というべき。
「見む」とは、
自分のしたことと同じ目みしたる、という意味。
といふ。
と言っている。
男、
つみもなき 人をうけへば 忘草
おのがうへにぞ 生ふといふなる
といふを、ねたむ女もありけり。
男、
男(が曰く)、
つみもなき
罪もない
人をうけへば 忘草
人の上に 忘れ草を植えれば
「を」=をばうえに。
続く「うけ」にかけて省略。
おのがうへにぞ
自分の上にも
(ここで上記の省略を根拠づける)
生ふといふなる
生えるというだろう。
目には目を、生えには生えを。
(因果応報。この因果の考えが、前段の玉の緒と符合する)
といふを、ねたむ女もありけり。
と言ったら、妬む女もいたようだ。
直接、間接的にクサしてしまったからだろう。
可能性としては、これ自体他の女にかまっていると見られた可能性もなきしにもあらず(19段『天雲のよそ』の文脈)。
いや女所は恐ろしい所。行動は慎重に。なお、業平はそこで狼藉を働き、笑われたと記録されている(65段)。
だから男は匿名。
そういう因縁を、なるべく作らないように。
因縁:
因果のうち、特に理由のない一方的な恨み。
因縁をつけるも、つけられるもよくないね、そういう話。
なるべく良い原因を作ることに励むこと。人として当り前のこと。
なお、罪のない者のみ石を打てという話があるが、それは違う。極端すぎる。
罪のない人でなければ何も言及できないなら極めて悪質な悪事すら野放しになるし
(つまりこの話はそれを意図した詭弁。多かれ少なかれ罪のない人は存在しえない)、
石を打つのもありえない手段。
全てバランス(中庸・相応)のもと考える。目的と手段が相応で、普遍の道理に照らし、公平であるようにする。
自分でもできない・日頃から軽んじ守れないことを、人にダメだしする資格がないことは当然。