惟喬親王(文徳の子、清和の兄)が桜の盛りの時、馬頭(業平)がお気に入りで、狩とは名ばかりの宴会に伴っていた所、
不幸にも、前段で親王達に歌の講釈をたれた著者がカリだされ、有常も巻き添えを食って二人で二人の相手をした話。
~
むかし惟喬親王という親王がいた。山崎の向こうに水無瀬という所に宮があり、年毎の桜の盛りにはその宮にいらしていた。
その時「右馬頭なりける人」を常に率いていらしていた。時世がたって久しいので、その人の名はもう忘れた。
※右馬頭は在五同様の蔑称。右馬頭なりける人(78段)、右馬頭なりける翁(77段)、近衛府にさぶらひける翁(76段)
名を忘れたとは、79段で兄の行平の娘を孕ませた噂を明示しているので、口にしたくない、関わりたくない(63段「けじめみせぬ心」)。
そして狩とは名ばかりで、酒を飲みつつ和歌のようなことをして遊んでいた(やまと歌にかゝれりけり)。
今、狩をする交野(かたの)の渚の家、その院の桜がとても面白く、
その木の下で枝を折って頭に挿したり(頭がお花畑のような子どものようなことを)して、位の上中下(かみなかしも)みな歌を詠んだ。
※これは9段で、句のかみに据えた燕子花(カキツバタ)と同じ構図。桜を頭にさしたという表現は、このリンクを表わしているとも言える。
つまり上=親王、中=馬頭、地下=著者=ただの役人。前段では親王達の前で地面を這って登場し歌のトリを務めるおかしさを描いた。六歌仙。
業平が六歌仙とされるのは、この著者のおこぼれをかすめとったから。伊勢がなくなれば業平には何もない。
そしてこの段の描写から明らかなように、伊勢は業平のものではない。むかし男と在五は違う。名は忘れたとあるのに、よく都合よく同一視できる。
さて、そこで馬頭なりける人(以下、馬頭)が詠んだ。
①世の中に 絶えて桜のなかりせば 春の心は のどけからまし
意味:世の中からハナから桜がないならば、春はのどかなのになあ~
(アホ? しかしこの内容は馬頭の他の歌から、著者の歌に合わせて整えたと見るべき。次との落差もひどい。伊勢にある以上著者の手の平にある)
また人の歌(この物語で何ら限定のない人は著者。むかし男。馬にダメだししていることからもそう。突如無関係の人を出して歌わせる理由がない)
②散ればこそ いとゞ桜はめでたけれ うき世になにか 久しかるべき
意味:桜は散るから美しいんでしょうが。馬かですか。そのレベルの憂いなんて桜が無くても世に満ちてるわ。ド阿保。
と言って、その木下から発って帰るに日暮れになった。
御供の人が(気まずくなったので気をきかせて)酒をもたせて野から出てきた。
(これも著者。野から出てきたとは、貴族に刈られる側という皮肉。実際その実力にタカられてるから。評判も伊勢も我が物顔で乗っ取られて)
今宵この酒を飲んで酔うのに良い所を求めていけば、天の川という所に出た。
そこで親王に馬頭がオミキ(大君に御神酒)をと献上する(なお、親王は馬より20歳年下)。したらば親王が調子にのってこうのたまった。
「交野で狩し、天の川のほとりにいたる題で歌を詠み、ワガハイに杯をせよ(これぞコレタカ杯じゃ!)」
(コレコレ、この小僧は何者じゃ? 何も褒美じゃねーだろ。帝の器じゃないわなあ。いや、君主は謙虚でなきゃ。国乱れ滅ぶねん)
そこで馬頭が詠んで奉った。
①狩り暮らし たなばたつめに 宿からむ 天の河原に 我は来にけり
意味:おいら狩暮らしのヤリエッティ 七夕の織姫がもてなす宿はないのかよ ここは天の川やろ。俺様のおなりだぞ。
(うわ、君が君なら馬も馬だわ)
親王は返す返すこの歌を誦じたが、返せないでマゴマゴしていた。
そこで突如出現、紀有常。お供に仕うまつれり。
(とういうことは先の酒もたせられてたのって有常じゃない? ひでー。長幼の序が全部逆や。いやもたせたなら著者だけど。
有常は業平の義父だが、そんなこととは関係なく、著者と仲良しなので(16段・38段)、この場を取り持ってくれるために呼んだと見る他ない。
業平と有常は親しい関係などではない。それはこの段から明らかだし、むかし男は馬頭=在五を嫌悪しているから(63・65段)、16段も馬頭と無関係)
その有常が返し
②一年に ひとたび来ます君まてば 宿かす人も あらじとぞ思ふ
意味:一年に一回だけの客を待つなんて、宿貸す人も いないだろ
(たりめーだ馬頭野郎、何が狩暮らしだ。この淫奔の放蕩が。あるじ面こいてんじゃねーぞ。
いや有常、何かこわない? ステイッステイッ)
さて宮に帰り、夜が更けるまで酒飲み物語して、良い感じになるかと思いきや、
あるじの親王がソッコーでオネムになった(ゑひて入り給ひなむとす)。まじかよ~どこまで子供なんだよ。
だから先ほどのあらじはあるじとかけているって。
十一日の月も隠れようとすれば(?)、かの馬頭が詠む。
①あかなくに まだきも月のかくるゝか 山の端にげて 入れずもあらなむ
意味:チョマテマテ、アカンやろ。まだ夜も明けてないし月も隠れてない。逃げんな逃げんな、寝かせはせん、寝かせはせんぞ!
(あ~こいつアホや)
バッター親王に代わって有常。(ハリセンじゃなくてバット。まだ瓶ビールないから。やっちゃってOK牧場)
②おしなべて 峯もたひらに なりななむ 山の端なくは 月もいらじを
意味:月並みだな。入れずって言ってもどうすんの。峰も平らにすれば山も端がなくなって月も隠れないってか。んなわけあるかい!
隠れようとする月を止めてどうする。止まりゃせんし、泊まりもせんわ。そもそも、そんな月なんていらんし。サイナラ。
はい終了~。かえろかえろ。僕達よゐこだから夜更かししないもんね。有野と有常でかかってるもんね。
なにこれ、オチねえなあ。
いや、もうすぐ月落ちるって? はあ…。
まあ、相手がコレだとこんなもんよ。
男女 及び 和歌 |
定家本 |
武田本 (定家系) |
朱雀院塗籠本 (群書類従本) |
---|---|---|---|
第82段 渚の院(の櫻) | |||
むかし、 | むかし、 | 昔。 | |
♂ | 惟喬の親王と申す親王おはしましけり。 | これたかのみこと申すみこおはしましけり。 | これたかときこゆるみこおはしけり。 |
山崎のあなたに、 | 山ざきのあなたに、 | 山ざきのあなたに | |
水無瀬といふ所に宮ありけり。 | みなせといふ所に宮ありけり。 | 水無瀨といふ所に宮ありけり。 | |
年ごとの桜の花ざかりには、 | 年ごとのさくらの花ざかりには、 | 年ごとの櫻の花ざかりに。 | |
その宮へなむおはしましける。 | その宮へなむおはしましける。 | かしこへなんかよひ給ひける。 | |
その時右馬頭なりける人を | その時、みぎのむまのかみなりける人を、 | その時むまのかみなりける人 | |
常に率ておはしましけり。 | つねにゐておはしましけり。 |
まいりつかうまつりければ。 御供におくらかし給はで。 つねにゐておはしましけり。 |
|
時世へて久しくなりにぬれば、 | 時よへてひさしくなりにければ、 | ||
その人の名忘れにけり。 | その人の名わすれにけり。 | ||
狩は懇にもせで | かりはねむごろにもせで、 | ||
酒をのみ飲みつゝ、 | さけをのみのみつゝ、 | ||
やまと歌にかゝれりけり。 | やまとうたにかゝれりけり。 | ||
いま狩する交野の 渚の家、 |
いまかりするかたのゝ なぎさのいへ、 |
なぎさの院の櫻。 | |
その院の桜いとおもしろし。 | そのゐんのさくらことにおもしろし。 | ことにおもしろくさけり。 | |
その木のもとにおりゐて、 | その木のもとにおりゐて、 | 木のもとにおりゐて。 | |
枝を折りてかざしにさして、 | えだをおりてかざしにさして、 | 枝をおりてかざしにさして。 | |
かみ、なか、しも、みな歌よみけり。 | かみなかしも、みなうたよみけり、 | みな人歌をよむに。 | |
馬頭なりける人のよめる。 | うまのかみなりける人のよめる、 | うまのかみなりける人のよめり。 | |
♪ 145 |
世の中に 絶えて桜のなかりせば |
世中に たえてさくらのなかりせば |
世中に たえて櫻のさかさらは |
春の心は のどけからまし |
春のこゝろは のどけからまし |
春の心は のとけからまし |
|
となむよみたる。また、人の歌、 | となむよみたりける。又人のうた、 | また人。 | |
♪ 146 |
散ればこそ いとゞ桜はめでたけれ |
ちればこそ いとゞさくらはめでたけれ |
ちれはこそ いとゝ櫻はあはれなれ |
うき世になにか 久しかるべき |
うき世になにか ひさしかるべき |
何か浮世に 久しかるへき |
|
とて、その木の下はたちてかへるに、 | とて、その木のもとはたちてかへるに、 | ||
日暮になりぬ。 | 日ぐれになりぬ。 | ||
むかし。おなじみこ 交野に狩しありき給けるに。 |
|||
御供なる人、 | 御ともなる人、 |
馬かみなりける人を。 かならず御供にゐてありき給ひけり。 |
|
酒をもたせて、 | さけをもたせて |
れいのごとありき給ふに。 この人かめにさけをいれて。 |
|
野より出できたり。 | 野よりいできたり。 | 野にもていでたり。 | |
この酒を飲みてむとて、 | このさけをのみてむとて、 | のまんとて | |
よき所を求め行くに、 | よきところをもとめゆくに、 | きよき所もとめゆくに。 | |
天の河といふ所にいたりぬ。 | あまのがはといふ所にいたりぬ。 | あまの河といふところにいたりぬ。 | |
親王に馬頭おほみきまゐる。 | みこにむまのかみおほみきまいる。 | むまのかみおほみきまいる。 | |
親王ののたまひける、 | みこのゝたまひける。 | みこののたまひける。 | |
交野を狩りて、 | かたのをかりて、 | かた野をかりて | |
天の河のほとりにいたる | あまのがはのほとりにいたる | あまの河にいたる | |
題にて、歌よみて杯はさせ | をだいにて、うたよみてさかづきはさせ、 | を題にてうたよみて。さかづきさせ | |
とのたまうければ、 | とのたまうければ、 | との給ひければ。 | |
かの馬頭よみて奉りける。 | かのむまのかみよみてたてまつりける。 | よみてたてまつれり。 | |
♪ 147 |
狩り暮らし たなばたつめに宿からむ |
かりくらし たなばたつめにやどからむ |
狩くらし 七夕つめに宿からん |
天の河原に 我は来にけり |
あまのかはらに われはきにけり |
あまの河原に 我はきにけり |
|
親王歌をかへすがへす誦じ給うて | みこ、哥を返ゞずじたまうて、 |
ときこえければ。此うたを みこかへす〴〵詠たまうて。 |
|
返しえし給はず。 | 返しえしたまはず、 | 返しえし給はず。 | |
紀有常 御供に仕うまつれり。 |
きのありつね 御ともにつかうまつれり。 |
きのありつね 御ともにつかうまつりたりけるが。 |
|
それがかへし、 | それが返し、 | かへし。 | |
♪ 148 |
一年に ひとたび来ます君まてば |
ひとゝせに ひとたびきますきみまてば |
一年に ひとたひきます君まて (なれ一本)は |
宿かす人も あらじとぞ思ふ |
やどかす人も あらじとぞ思 |
宿かす人も あらしとそ思ふ |
|
かへりて宮に入らせ給ひぬ。 | かへりて宮にいらせたまひぬ。 | 歸りて宮にいらせ給ぬ。 | |
夜ふくるまで酒飲み物語して、 | 夜ふくるまでさけのみものがたりして、 | 夜ふくるまで酒のみ物語して。 | |
あるじの親王、ゑひて入り給ひなむとす。 | あるじのみこ、ゑひていりたまひなむとす。 | あるじのみこゑひていり給ひなんとす。 | |
十一日の月もかくれなむとすれば、 | 十一日の月もかくれなむとすれば、 | 十日あまりの月かくれなんとす。 | |
かの馬頭のよめる。 | かのむまのかみのよめる。 | それにかのむまのかみなりける人のよめる。 | |
♪ 149 |
あかなくに まだきも月のかくるゝか |
あかなくに まだきも月のかくるゝか |
あかなくに またきも月の隱るゝか |
山の端にげて 入れずもあらなむ |
山のはにげて いれずもあらなむ |
山端逃て いれすもあら南 |
|
親王にかはり奉りて、 | みこにかはりたてまつりて、 | みこにかはりて。 | |
紀有常、 | きのありつね、 | きのありつね。 | |
♪ 150 |
おしなべて 峯もたひらに なりななむ |
をしなべて みねもたひらに なりなゝむ |
をしなへて 峯もた(な一本)ひらに 成なゝ(ら一本)ん |
山の端なくは 月もいらじを |
山のはなくは 月もいらじを |
山端なくは 月もかくれし |
|
むかし、惟喬の親王と申す親王おはしましけり。
山崎のあなたに、水無瀬といふ所に宮ありけり。
年ごとの桜の花ざかりには、その宮へなむおはしましける。
むかし
惟喬の親王と申す親王おはしましけり
これたか親王と申す親王がおわせられた。
惟喬親王(844-897≒53歳)
年齢的に馬頭より20歳ほど下。
山崎のあなたに
山崎の向こうに、
山崎:京都の南・大山崎町。
あなた 【彼方・貴方】
:あちら。むこうの方。
ここでは、山を越えた向こう(近くではない)という意味。
水無瀬といふ所に宮ありけり
水無瀬という所に宮があった。
現在の水無瀬神宮。
年ごとの桜の花ざかりには
毎年の桜の花の盛りには
その宮へなむおはしましける
その宮へおゆきになったのであった。
桜と雪をかけて。
その時右馬頭なりける人を常に率ておはしましけり。
時世へて久しくなりにぬれば、その人の名忘れにけり。
その時右馬頭なりける人を
その時、右馬頭の人を
右馬頭:役職名。業平
右馬頭なりける人(78段・山科の宮)
右馬頭なりける翁(77段・安祥寺)
近衛府にさぶらひける翁(76段・小塩の山)
在五中将(63段。これ以前に軍人は出てこない)
常に率ておはしましけり
常に伴っていらした。
時世へて久しくなりにぬれば
時間が永いことたったので、
その人の名忘れにけり
その人の名は忘れた。
名を忘れたとは方便で、口に出したくないという意味。
狩は懇にもせで酒をのみ飲みつゝ、やまと歌にかゝれりけり。
狩は懇にもせで
狩はそっちのけで
ねもころ (ねんごろ)【懇】
:心をこめて。熱心に。
酒をのみ飲みつゝ
酒を飲み飲みしながら
やまと歌にかゝれりけり
和歌に熱中していた。
これは前段の宴会の内容を受けた表現。風流集団などではない。ただの道楽。
だからコレタカは歌を歌えないという描写だろう。
スゲー!何かよくわからんけど、ワカおもしれー!と思った。それだけ。
そして著者はそれに否応無くつき合わされている。さらにそれに付き合わされたのが、有常。
いま狩する交野の渚の家、その院の桜いとおもしろし。
その木のもとにおりゐて、枝を折りてかざしにさして、
かみ、なか、しも、みな歌よみけり。
いま狩する交野の
今狩をする交野の
交野(かたの)
:今の大阪府枚方市・交野市。皇室の狩猟地で桜の名所。歌枕(うたまくら)。
渚の家、その院の桜いとおもしろし
渚にある家、その韻の桜がとても面白く
渚の家:御殿山公園(枚方市渚本町)辺り。
おもしろし:興がある。
ただし面白い(滑稽な)文脈とかけていることは、前段同様。
その木のもとにおりゐて
その木の下に降り立ち集まり
おりゐ:降り居×おり(接頭)居
「おりゐて」を「折りて」で韻を踏み
枝を折りてかざしにさして
枝を折って頭にさして
(大の男がするのだから子供・アホっぽい様子。風流ではない)
かざし【挿頭】
:かんざし。花や枝を頭髪などに挿すこと。その挿したもの。髪飾り。
かざしにさしで韻を踏む。
かみなかしもみな歌よみけり
みなみな歌を詠んだ
(ただしコレタカは除く)
かみなかしも 【上中下】
:身分の高い人、中の人、低い人。
ここでは、特に下の者もいることを示す意味。前段の著者。地面に這っていた(地下の)かたゐ翁。
もっといえば、上(達部)=親王 中=馬頭・有常 下=著者。
なぜ著者がいるかというと、親王が歌を好むようなので、狩にかけてかりだされた。
前段の河原左大臣(親王達)の宴会つながりで(断れない)。
でなければ、名を言いたくもない馬頭と一緒になどいない。
そして上中下は伊勢の著者の造語・略語と見るべき。
なぜなら、歌の構成にもかかっているから。
馬頭なりける人のよめる。
世の中に 絶えて桜のなかりせば
春の心は のどけからまし
となむよみたる。
馬頭なりける人のよめる
馬頭の人が詠んだ。
世の中に 絶えて桜のなかりせば
世の中に ハナから桜がないほうが
春の心は のどけからまし
春の心は のどかなんでないの
のどけからまし:のどかなり+から(ざり)+まし
のどかなり 【長閑なり】
:穏やか。うららか。のんびり。ゆったり。落ち着いて。平気。
まし〔反実仮想〕
:もし…であったら…であるだろうに。
となむよみたる
と実に馬頭みたいな内容を詠んだ。
また、人の歌、
散ればこそ いとゞ桜はめでたけれ
うき世になにか 久しかるべき
とて、その木の下はたちてかへるに、日暮になりぬ。
また人の歌
一切属性がないこと、ダメだしなので著者。
散ればこそ いとゞ桜はめでたけれ
散るからこそ 一層桜は愛でて美しいもの
いとど:ますます。いっそう。
めでたし:すばらしい。見事。
うき世になにか 久しかるべき
この世が憂いことは 久しいこと(普通)だろ
桜云々は関係ない。おまえが世間知らずなだけ。
永遠なことなど何も無い?→×
そんなことは書いてない。それに、それだと希望も何もない。
なんですぐ文字を離れて脳内妄想に走るの。
とてその木の下はたちてかへるに
といって、その木下から発って帰れば
日暮になりぬ
日暮れになった。
御供なる人、酒をもたせて、野より出できたり。
この酒を飲みてむとて、よき所を求め行くに、天の河といふ所にいたりぬ。
御供なる人
お供の人
「また人」とかけて著者。
酒をもたせて野より出できたり
酒を持たせて野から出てきた。
つまり身は卑しいということ。貴族じゃなくて刈られる方。
この酒を飲みてむとて
この酒を飲もうといって
よき所を求め行くに
それに相応しい所を求めていくと、
天の河といふ所にいたりぬ
天の川という所に至った。
今の天の川橋付近。
親王に馬頭おほみきまゐる。
親王ののたまひける、
交野を狩りて、天の河のほとりにいたる題にて、歌よみて杯はさせ
とのたまうければ、
親王に馬頭おほみきまゐる
親王に馬が酒を酌しに参る。
おほみき 【大御酒】
:天皇が飲む酒の尊敬語。
親王ののたまひける
その際、親王が調子にのってのたまった。
交野を狩りて
カタノで狩して
天の河のほとりにいたる題にて
天の川のほとりに至るという題で
歌よみて、杯はさせ
歌を詠んで、酌してちょーだい。
これぞ、コレタカ杯や。
…いや、いらんし。罰ゲームだろ。
とのたまうければ
とのたまった(ほざいた)ので。
かの馬頭よみて奉りける。
狩り暮らし たなばたつめに宿からむ
天の河原に 我は来にけり
親王歌をかへすがへす誦じ給うて
返しえし給はず。
かの馬頭よみて奉りける
かの馬頭が詠んで奉った。
狩り暮らし たなばたつめに 宿からむ
狩(道楽)ばかりで 七夕に織姫の宿にもこれやしない
たなばたつめ 【棚機つ女・織女】
:七夕伝説の織女
天の河原に 我は来にけり
天の河原に 俺は来たのに
親王歌をかへすがへす誦じ給うて
親王はその歌を返す返すつぶやくが、
返しえし給はず
それに返せないでいた。
つまり馬頭と同じく頭が足りてません。
紀有常、御供に仕うまつれり。
それがかへし、
一年に ひとたび来ます君まてば
宿かす人も あらじとぞ思ふ
紀有常、御供に仕うまつれり
そこで突如出現する有常が、颯爽とお供に参じて
それがかへし
それが返し
一年に ひとたび来ます君まてば
一年に一回もこねーお前を待てば
宿かす人も あらじとぞ思ふ
宿かす人も さすがにいないでしょ。
チミ(河原にかけて在原)なんてもう存在しないと思うでしょ。
有常の娘は馬頭の嫁になってしまったので、家に来るなと言っている。
彦星を待っているから貸さない→×
だからそれに自分(馬頭)を例えている。
かへりて宮に入らせ給ひぬ。
夜ふくるまで酒飲み物語して、
あるじの親王、ゑひて入り給ひなむとす。
十一日の月もかくれなむとすれば、かの馬頭のよめる。
あかなくに まだきも月のかくるゝか
山の端にげて 入れずもあらなむ
かへりて宮に入らせ給ひぬ
それはスルーされて、帰って宮に入りなさった。
夜ふくるまで酒飲み物語して
夜が更けるまで酒を飲み雑談をして
(帰してくれ~)
あるじの親王ゑひて入り給ひなむとす
主宰の親王が酔って先に寝ると言い出す。
チョまてよ
入り:ここでは寝る。没すの用法とかける。
十一日の月もかくれなむとすれば
トオイチニチの月も隠れようとすれば
遠い地での一日か。ここは微妙。
普通に十一日でもいいだろうが、明らかに意図している。
かの馬頭のよめる
かの馬頭が詠んだ
あかなくに まだきも月のかくるゝか
夜も明けず まだ月もこないのに隠れるか
山の端にげて 入れずもあらなむ
山の端に逃げても 寝させはせん
親王にかはり奉りて、紀有常、
おしなべて 峯もたひらに なりななむ
山の端なくは 月もいらじを
親王にかはり奉りて紀有常
バッター見送りマンの親王に代わって有常。
サイン:月に向かって打て
おしなべて 峯もたひらに なりななむ
月並みに 峰も平らにできるなら
おしなべて:
①一様に。すべて。みな同じく。
②普通に。人並みに。
山の端なくは 月もいらじを
山の端もないし、月も入れないだろうが(だから、んなことはできない)
つまり自然の営みなので止められない。
隠れようとするんだから止めることもあるまい。止められないだろ。別にいらんし。
さすが有常、大人の対応ですわあ。
平らになってほしい、ってそんな夢想するわけない。さすがにそこまでお花畑じゃない。