むかし、男がはつかなりける女のもとにと(歌をしたため)
(僅かなり:色んな意味で近しく、珍しい・まれだと思っている女)
あふことは 玉の緒ばかり おもほえて つらき心の ながく見ゆらむ
巡り逢うことは、玉の緒のように思われて 辛い心が より長く見えるようだ。
※この歌は、14段(陸奥の国)の歌と「玉の緒ばかり」で符合し、その女のこと。
(似ているが、25段の小町のことではないということだろう。しかしもしかすると、ということもある。彼女も東北であるし)。
→なかなかに 恋に死なずは 桑子にぞ なるべかりける 玉の緒ばかり
「玉の緒 」とは、魂の糸・繋がり・運命の糸。
玉の緒のように思われて
とは、一見タマタマのようだが、確かな繋がりがあるように思われてという意味。
ひるがえってあふ
とは、時を経て巡り会ったという意味。これは24段の梓弓の歌と同じ意味(梓弓ま弓つき弓 年を経て)。
その長い因果を思い、互いの辛い気持ちが、より長いものにヨっていると思われると。
なお、こういう因果(玉の緒、平安的に言えば宿世)は、単に気になるという程度の話ではなく、
ここでの「玉の緒ばかり」のような、明確な符合があること、その符合の程度に基づいて判断される。
そして、陸奥の国の歌も、梓弓の歌(梓弓引けど引かねど 昔より)も、万葉に依拠している。
これがそういう繋がりを示す例。「昔より」というのもそういう意味。古典はそういう繋がりを示す意味で存在しているのが高度な存在意義。
なかなかに 恋に死なずは 桑子にぞ なるべかりける 玉の緒ばかり
(伊勢14段・陸奥の国)
なかなかに 人とあらずは 桑子にも ならましものを 玉の緒ばかり
(万葉集12/3086)
梓弓 引けど引かねど 昔より 心は君に 寄りにしものを
(伊勢24段・梓弓)
梓弓 末のたづきは知らねども 心は君に 寄りにしものを
(万葉集12/2985②)
梓弓 引きみ緩へみ思ひみて すでに心は 寄りにしものを
(万葉集12/2986)
男女 及び 和歌 |
定家本 |
武田本 (定家系) |
朱雀院塗籠本 (群書類従本) |
---|---|---|---|
第30段 はつかなりける女 | |||
♂ | むかし、男、 | むかし、おとこ、 | むかしおとこ。 |
はつかなりける女のもとに、 | はつかなりける女のもとに、 | はつかなりける女に。 | |
♪ 63 |
あふことは 玉の緒ばかりおもほえて |
あふことは たまのをばかりおもほえて |
逢ことは 玉のをはかり思ほえて |
つらき心の ながく見ゆらむ |
つらき心の ながく見ゆらむ |
つらき心の なかくみるらん |
|
むかし、男、
はつかなりける女のもとに、
あふことは 玉の緒ばかり おもほえて
つらき心の ながく見ゆらむ
むかし、男、
はつかなりける女のもとに、
色々な意味で近い女のもとに(歌をしたため)
はつか【僅か】
①かすか。ほのか。
②わずか。少ない。才能がおとる
③近い。
これらを包含して包んだ言葉。
近いとはここでは物理的ではなく心理的な意味。
つまり、男はこの女のことを自分と似ていて、珍しいと思っている。
恋心を重んじ、流れで、包んだ性格、自分をばか(くたかけ)と思う控えめな態度(14段・陸奥の国)。
しかし客観的にみてばかなわけではない。
あふことは
会う(逢う)ことは
玉の緒ばかり
玉の緒のように
玉の緒
:魂の糸(意図)≒運命の糸
※偶々(タマタマ)のようだが
定めのように
おもほえて
思われて
つらき心の
辛い心が
ながく見ゆらむ
長く思われる
今までの因果の流れを思って。