原文 |
書き下し 漢文叢書 |
現代語訳 下村湖人 要検討 |
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堯曰 | 堯げう曰く、 |
堯帝が 天子の位を舜帝に譲られたとき、いわれた。 |
咨 | 咨あゝ | 「ああ、 |
爾舜 | 爾なんぢ舜しゆん、 | 汝、舜よ。 |
天之 曆數 在爾躬 |
天てんの 暦数れきすうは 爾なんぢの躬みに在あり、 |
天命 今や 汝の身に下って、ここに汝に帝位をゆずる。 |
允 執其中 |
允まことに 其中そのちうを執とれ、 |
よく中道をふんで政を行え。 |
四海 困窮 |
四海しかい 困窮こんきうせば |
もし天下万民を 困窮せしめることがあれば、 |
天祿 永終 |
天禄てんろく 永ながく終をへん、 |
天の恵みは 永久に汝の身を去るであろう。」 |
舜亦 以命禹 |
舜しゆんも亦また 以もつて禹うに命めいず、 |
舜帝が 夏かの禹う王に位を譲られるときにも、 同じ言葉をもってせられた。 |
×夏かは 桀けつ王にいたって無道であったため、 殷いんの湯とう王がこれを伐ち、 天命をうけて天子となったが、 その時、湯王は天帝に告げて |
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曰 | 曰く、 | いわれた。 |
予 小子履 |
予よ 小子履せうしり、 |
「小さき者、履り、 |
敢 用玄牡 |
敢あへて 玄牡げんぼを用もつて、 |
つつしんで 黒き牡牛をいけにえにして、 |
敢昭 吿于 皇皇 後帝 |
敢あへて昭あきらかに 皇皇くわうくわうたる 后帝こうていに 告つぐ、 |
敢て 至高至大なる天帝に ことあげいたします。 |
有罪 不敢赦 |
罪つみ有あるは 敢あへて赦ゆるさず、 |
私はみ旨を奉じ万民の苦悩を救わんがために、 天帝に罪を得た者を 誅しました。 |
帝臣 不蔽 |
帝臣ていしん 蔽おほはず、 |
天帝のみ心に叶う臣下は すべてその徳が蔽われないよう 致したいと思います。 |
簡 在帝心 |
簡えらぶこと 帝ていの心こゝろに在あり、 |
私は天帝のみ心のまにまに 私の進むべき道を選ぶのみであります。」 |
更に諸侯に告げていわれた。 | ||
朕躬 有罪 |
朕ちんが躬みに 罪つみ有あれば、 |
「もしわが身に 罪あらば、それはわれひとりの罪であって、 |
無 以萬方 |
萬方ばんはうを以もつてする 無なかれ、 |
万民の罪では ない。 |
萬方 有罪 |
萬方ばんはう 罪つみ有あれば、 |
もし万民に 罪あらば、 |
罪 在朕躬 |
罪つみ 朕ちんが躬みに在あらんと。 |
それは万民の罪でなくて、われひとりの 罪である。」 |
殷いんは 紂ちゅう王にいたって無道であったため、 周の武王がこれを伐ち、 天命をうけて天子となったが、 その時、武王は天帝に誓っていわれた。 |
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周 有大賚 |
周しうに 大賚たいらい有あり、 |
「周に下された 大きな御賜物を感謝いたします。 |
善人 是富 |
善人ぜんにん 是これ富とむ。 |
周には何と善人が 多いことでございましょう。 |
雖有 周親 |
周親しうしん 有ありと雖いへども、 |
いかに親しい身内のものが 居りましょうとも、 |
不如 仁人 |
仁人じんにんに 如しかず。 |
仁人の多きには 及びませぬ。 |
百姓 有過 |
百姓ひやくせい 過つみ有らば、 |
かように仁人に恵まれて、 なお百姓ひゃくせいに 罪がありますならば、 |
在 予一人 |
予われ一人いちにんに 在ありと。 |
それは私ひとりの 罪でございます。」 |
謹 權量 |
權量けんりやうを 謹つゝしみ、 |
武王はこうして、 度量衡を 厳正にし、 |
審 法度 |
法度はふどを 審つまびらかにし、 |
礼楽制度を ととのえ、 |
修 廢官 |
廃官はいくわんを 脩をさめば、 |
すたれた官職を 復活して、 |
四方之 政行焉 |
四方しはうの 政まつりごと行おこなはる。 |
四方の 政治に治績を挙げられた。 |
興 滅國 |
滅国めつこくを 興おこし、 |
また、滅亡した国を 復興し、 |
繼 絕世 |
絕世ぜつせいを 継つぎ、 |
断絶した家を 再建し、 |
擧 逸民 |
逸民いつみんを 挙あげば、 |
野にあった賢者を 挙用して、 |
天下之 民歸心焉 |
天下てんかの 民たみ心こゝろを帰きす。 |
天下の 民心を帰服せしめられた。 |
所重 | 重おもんずる所ところは | とりわけ重んじられたのは、 |
民、 食、 喪、 祭 |
民食みんしよく 喪祭さうさい。 |
民の食と 喪と祭とであった。 |
寬 則得衆 |
寬くわんなれば 則すなはち衆しうを得え、 |
かように、君たる者が 寛大であれば 衆望を得、 |
信 則民任焉 |
信しんなれば 則すなはち民たみ任にんず。 |
信実であれば 民は信頼し、 |
敏 則有功 |
敏びんなれば 則ち功こう有あり、 |
勤敏であれば 功績があがり、 |
公 則說 |
公こうなれば 則すなはち民たみ説よろこぶ。 |
公正であれば 民は悦ぶ。 |
これが政治の要道であり、 堯帝・舜帝・禹王・湯王・武王の 残された道である。 |
○ 履=湯王自身の名である。
○ 堯帝、舜帝、夏の禹王、殷の湯王、周の武王は支那古代の理想的帝王とされた人々であるが、禹王までは謂ゆる禪譲によつて位をつぎ、湯王と武王は謂ゆる放伐によつて位に上つた。
○ 本章の原文は、書経などにある言葉をひろつてつないだようなもので、そのままでは、誰の言葉であるかも見当がつかない。で学者の註解をたよりに、一通り筋道が立つだけに説明の言葉を補つて訳した。