原文 (実践女子大本) |
現代語訳 (渋谷栄一) |
注釈 【渋谷栄一】 |
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去年より薄鈍なる人に、 | 去年から薄鈍の喪服を着ている人に、 | 【去年より薄鈍なる人に】-作者のこと。長保三年(一〇〇一)四月二十五日、夫宣孝が亡くなった。 |
女院崩れさせたまへる春、 | 女院(東三条院)がお崩れになった春、 | 【女院崩れさせたまへる春】-長保三年閏十二月二十五日、東三条院詮子崩御。「春」は翌長保四年(一〇〇二)。底本「かく」衍字をミセケチにする。 |
いたう霞みたる夕暮れに、 | たいそう霞んでいる夕暮れに、 | |
人の | ある人が | |
さし置かせたる。 | 持たせて置いていった歌。 | 【さし置かせたる】-実践本「をく」は定家の仮名遣い。 |
雲の上も | 宮中でも〈雲の上人も〉 | 【雲の上も】-宮中。〈とするのが通説で、集成はこれに加え帝とするが、人が死んだ文脈なので文字通りの雲の上が本来。それに掛け殿上。和歌は心が種なので即物的・暗記主義的に捉えない。天上が本来で地上が本来ではない〉 |
もの思ふ春は | 悲しみに沈んでいる諒闇の春は | |
墨染めに | 薄鈍色に | |
霞む空さへ | 霞んでいる空までが | |
あはれなるかな | しみじみと思われます | |
「東三条院かくれさせ給ひける又の年の春、いたくかすみたる夕暮に人のもとへつかはしける 紫式部
雲のうへのもの思ふ春はすみぞめにかすむ空さへあはれなるかな」(吉田兼右筆本「玉葉集」雑四 二二九八)【渋谷注】玉葉集では、作者を取り違えて、紫式部の歌としている。