原文 (実践女子大本) |
現代語訳 (渋谷栄一) |
注釈 【渋谷栄一】 |
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文の上に朱といふ物を | 手紙の紙面に朱というものを | 【文の上に朱といふ物】-藤原宣孝から作者への手紙に、朱筆で、点々と書いたもの。 |
つぶつぶと注きかけて、 | 点々とふりかけて、 | 【注きかけて】-「注(そそ)き」清音。 |
「涙の色」 | 「わたしの涙の色です」 | |
など書きたる人の | などと書き送ってきた人への | |
返り事に、 | 返事に、 | |
紅の | 紅の | |
涙ぞいとど | 涙がますます | |
疎まるる | 疎ましく思われます | |
移る心の | 心変わりする | 【移る心の色】-「移る」は色褪せる。心変わりの意。 |
色に見ゆれば | 色に見えますので | |
もとより人の女を得たる人なりけり。 | もともと妻のいる人なのであった。 |
【もとより人の女を得たる人】-藤原宣孝は既に妻がいた。 紫式部との結婚を長徳四年(九九八)とすると、宣孝は四十六歳、式部二十六歳頃、宣孝の子の隆光二十六歳、隆佐十七歳、明懐十四歳。 |
「人のおこせたりけるふみのうへに朱にて、なみだのいろをとかきて侍りければ 紫式部
くれなゐのなみだぞいとどたのまれぬうつるこころのいろとみゆれば」(尊経閣文庫本「続古今集」恋二 一一九三)