原文 (実践女子大本) |
現代語訳 (渋谷栄一) |
注釈 【渋谷栄一】 |
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人の、 | あの人が、 |
【人の】-藤原宣孝か。求婚頃の歌。 〈とするのが通説で、新大系・集成は根拠を示さず「宣孝の求婚である」と断定するが文言上根拠がなく、この人は続く一連の歌の符合から58番の「ほのかに語らひける人」と解する(独自)。 夫には33番「底見ゆる石間の水は絶えば絶えなむ」があり、83番を夫と見るなら心変わりを想像で補わないと通らず、しかも人に批判的な式部が回想というだけで突然美化する理由がない。しかし「ほのかに語らひける人」なら補う必要なく宮中の歌序でも文言でも問題なく通る。よって夫の歌とするのは根拠がない思い込みに過ぎない。「契り」二文字の一つ覚えで夫というなら、15番で「姉君」と書き交わしたのは契りではないのか。そういう数文字の決め打ちは貫之が女を装った同様、解釈ではないことに気づいてほしい。 |
け近くて |
〈色々近くて〉 △近しくなって |
〈宮中での生活をいうと解する。求婚説は歌序も内容の連続性も完全に無視して押し切っている〉 |
誰れも心は |
〈誰でも人に見せないところまで〉 △お互いに心は |
【誰れも心は】-お互いの心、気持ち。 |
見えにけむ |
〈見えてしまうでしょう〉 △見えたでしょう |
〈にけむ:…てしまっただろう。完了の助動詞「ぬ」の連用形+過去推量の助動詞「けむ」。色々近いと誰でも人に見えないところも見えてしまうだろう。独自〉 |
言葉隔てぬ |
〈それでもよそよそしくない〉 ×人伝てでない |
【言葉隔てぬ契り】-他者を介してのやりとりではない、仲。 〈この言葉隔てぬ契りは、実践57~58の贈答「閉ぢたりし岩間の氷うち解けばをだえの水も影見えじやは」「深山辺の花吹きまがふ谷風に結びし水も解けざらめやは」と解する〉 |
契りともがな | 仲となりたいものですね |
【ともがな】-連語「ともがな」(格助詞「と」+終助詞「もがな」) 〈もがな:願望。であればいいなあ・あったらいいなあ〉 |