原文 (実践女子大本) |
現代語訳 (渋谷栄一) |
注釈 【渋谷栄一】 |
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やうやう | だんだんと | |
明け行くほどに、 | 夜が明けて行くころに、 | |
渡殿に来て、 | 渡殿に来て、 | 【渡殿に来て】-主語は作者。 |
局の下より出づる水を、 | 局の下から湧き出ている遣水を、 | |
高欄を押さへて、 | 高欄を押さえて、 | 【押さへて】-実践本「をさふ」は定家の仮名遣い。 |
しばし見ゐたれば、 | 暫く見ていると、 | |
空のけしき、 | 空の様子は、 | |
春秋の霞にも霧にも | 春秋の霞や霧にも | |
劣らぬころほひなり。 | 劣らない時節である。 | |
小少将の | 小少将の君の | 【小少将】-源時通の娘。 |
隅の格子をうち叩きたれば、 | 局の隅の格子をちょっと叩くと、 | |
放ちて押し下ろしたまへり。 | 半蔀を上げ放って下格子を外しなさった。 | 【放ちて押し下ろしたまへり】-半蔀を上げ放ち、下の格子を取り外した。「をす」は定家の仮名遣い。 |
もろともに下り居て眺めゐたり。 | 一緒に庭に下りて眺めていた。 | 【下り居て】-庭に下りた。 |
影見ても | 遣水に映る姿を見ても | 【影見ても】-遣水に映るわが姿。 |
憂きわが涙 | 嫌なわたしの涙が | |
落ち添ひて | 落ち加わって | |
かごとがましき | 恨みがましい | |
滝の音かな | 滝の音ですこと | 【滝の音】-遣水の滝。「をと」は定家の仮名遣い。 |
「東北院のわたどののやり水にかげをみてよみ侍りける 紫式部
かげ見てもうきわが涙おちそひてかごとがましきたきのおとかな」(書陵部本「続後撰集」雑上 一〇一二)