原文 (黒川本) |
現代語訳 (渋谷栄一) 〈適宜当サイトで改め〉 |
注釈 【渋谷栄一】 〈適宜当サイトで補注〉 |
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またの夜、 月いとおもしろし。 |
翌日の夜、 月がたいそう美しい。 |
【おもしろし】-底本「おもしろく」。『絵詞』は「おもしろし」とある。『全注釈』同様に「おもしろし」と校訂する。『集成』『新大系』『新編全集』『学術文庫』は底本のままとする。 |
ころさへ をかしきに、 |
時候までが 風情あるころなので、 |
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若き人は 舟に乗りて遊ぶ。 |
若い女房たちは 舟に乗って遊ぶ。 |
【舟に乗りて遊ぶ】-土御門殿邸の池に舟を浮かべて漕ぎめぐった。 |
色々なる 折よりも、 |
色とりどりの衣装を着ている 普段よりも、 |
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同じさまに さうぞきたる やうだい、 髪のほど、 曇りなく見ゆ。 |
皆同じ白一色に 装束している 容姿や 髪の具合などが、 はっきりと見える。 |
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2 |
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小大輔、 | 小大輔の君や | 【小大輔】-前出の伊勢大輔か、とされる。 |
源式部、 | 源式部の君、 | 【源式部】-前出、源重文の娘。 |
宮城の侍従、 | 宮城の侍従の君、 | 【宮城の侍従】-中宮付きの女房。出自未詳。 |
五節の弁、 | 五節の弁の君、 | 【五節の弁】-中宮付きの女房。平惟仲の養女。 |
右近、 | 右近の君、 | 【右近】-前出、右近の蔵人と同人。 |
小兵衛、 | 小兵衛の君、 | 【小兵衛】-前出、源明理の娘。〈以下の人々は源式部の前出と同じ〉 |
小衛門、 | 小衛門の君、 | 【小衛門】-前出、橘道時の娘。 |
馬、 | 馬の君、 | 【馬】-大馬、小馬のいずれか不明。 |
やすらひ、 | やすらい、 | 【やすらひ】-中宮付きの童女。 |
伊勢人など、 | 伊勢人などが、 | 【伊勢人】-童女「やすらひ」の注記混入か、とされる。 |
端近く ゐたるを、 |
端近くに 座っているのを、 |
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左宰相中将<経房>、 | 左宰相中将(源経房)と | 【左宰相中将】-前出、源高明の四男、源経房。四十歳。『絵詞』によって割注「経房」を補う。 |
殿の中将の君<教通>、 | 殿の中将の君(教通)が | 【殿の中将の君】-道長の次男教通。十三歳。『絵詞』によって割注「教通」を補う。 |
誘ひ出で たまひて、 |
お誘い出し になって、 |
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右宰相中将<兼隆>に 棹ささせて、 |
右宰相中将(兼隆)に 棹をささせて、 |
【右宰相中将】-前出、藤原兼隆。二十四歳。 |
舟に 乗せたまふ。 |
池の舟に 乗せなさる。 |
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3 |
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片へは すべり とどまりて、 |
一部の女房は するりと抜けて 後に残ったが、 |
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さすがに うらやましく やあらむ、 |
やはり 誘われた人たちを うらやましく 思ったのであろうか、 |
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見出だしつつ ゐたり。 |
眺めやりながら 座っていた。 |
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いと 白き庭に、 月の光り あひたる、 |
たいそう 白い庭の上に、 月の光が 照り返して、 |
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やうだい かたちも をかしき やうなる。 |
舟中の人々の 容姿や 容貌も 風情ある 様子である。 |
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4 |
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北の陣に 車あまたあり といふは、 |
北の陣に 牛車がたくさんとまっている というのは、 |
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主上人ども なりけり。 |
主上付きの女房たち がお祝いに来た車 なのであった。 |
【主上人ども】-主上付きの女房たち。 |
藤三位をはじめにて、 | 藤三位の君を始めとして、 | 【藤三位】-主上付きの女房、藤原繁子。右大臣藤原師輔の娘。 |
侍従の命婦、 | 侍従の命婦の君、 | 【侍従の命婦】-主上付きの女房、出自未詳。 |
藤少将の命婦、 | 藤少将の命婦の君、 | 【藤少将の命婦】-主上付きの女房、源政職の妻藤原能子。 |
馬の命婦、 | 馬の命婦の君、 | |
左近の命婦、 | 左近の命婦の君、 | |
筑前の命婦、 | 筑前の命婦の君、 | |
少輔の命婦、 | 少輔の命婦の君、 | |
近江の命婦 | 近江の命婦の君 | |
などぞ 聞きはべりし。 |
などであると 聞きました。 |
【馬の命婦、左近の命婦、筑前の命婦、少輔の命婦、近江の命婦】-主上付きの女房、いずれも出自不明。底本「少輔の命婦」ナシ。『絵詞』に「せうの命婦」とあるによって補う。 【聞きはべりし】-底本「きこえ侍し」。『絵詞』には「きゝ侍し」とある。『全注釈』『集成』『新大系』は「絵詞」に従って「聞きはべりし」と本文を改める。『新編全集』と『学術文庫』は底本のまま。 |
詳しく見知らぬ 人びとなれば、 |
詳しくは見知らない 人びとなので、 |
【詳しく見知らぬ】-『絵詞』は「みもしらぬ」とある。底本のままとする。 |
ひがごとも はべらむかし。 |
間違いが あるかも知れません。 |
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5 |
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舟の人びとも まどひ入りぬ。 |
舟に乗っていた女房たちも あわてて室内に入った。 |
〈4のようなボス達がきたので、楽しんでいる場合ではなくかしこまって歓待するために〉 |
殿 出でゐたまひて、 |
殿が お出ましになって、 |
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おぼすことなき 御気色に、 |
何のくったくもない 御機嫌で、 |
〈舟の若い女子達の惑いと対比し、帝の付人達を何とも思わない様子の描写。これは多分に女達だからというのもある〉 |
もてはやし たはぶれたまふ。 |
主上付きの女房たちを 歓待し 冗談をおっしゃたりなさる。 |
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贈物ども、 品々に たまふ。 |
贈物など、 身分に応じて お与えになる。 |