原文 (黒川本) |
現代語訳 (渋谷栄一) 〈適宜当サイトで改め〉 |
注釈 【渋谷栄一】 〈適宜当サイトで補注〉 |
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1 |
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例の、 | いつものように、 | |
渡殿より 見やれば、 |
渡殿の部屋から 寝殿の方を見やると、 |
【渡殿より】-紫式部の居室である渡殿の戸口の局から。 |
妻戸の前に、 | その妻戸の前に、 | |
宮の大夫、 | 中宮大夫藤原斉信や | 【宮の大夫】-中宮大夫藤原斉信。 |
春宮の大夫など、 | 春宮大夫藤原懐平など〈や〉、 | 【春宮の大夫】-藤原兼平。 |
さらぬ 上達部も あまた さぶらひ たまふ。 |
〈そこまでではない〉 上達部たちも 大勢 伺候して いらっしゃる。 |
△その他の 〈さらぬ (然らぬ):①そうではない、その他の、②そこまでではない 通説(全集・集成・全注釈)は①とするが、直前の「など」の意味と重複し、択一的に解する必然もないことから、掛詞的に②主①従と見る。独自〉 |
2 |
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殿、 出でさせたまひて、 |
殿が お出ましになって、 |
【殿】-藤原道長。 〈紫式部はどうやら渡殿と殿をセットで書いている。独自〉 |
日ごろ 埋もれつる 遣水 つくろはせたまふ。 |
この数日来、 落ち葉などで〈うずもれ〉ていた 遣水の 手入れを命じさせなさる。 |
△被われ 〈道長が遣水(やりみず:庭の水路)を手入れさせる光景は以前にもあり、出産手配で手一杯だったのが一息つき、直後に自ら庭を見回っているので強いルーティン性を表す。つまり庭好きなおじさん〉 |
人びとの 御けしきども 心地よげなり。 |
殿上人たちの 御様子も 気分よさげである。 |
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3 |
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心の内に 思ふことあらむ人も、 |
心の内には 〈思うことあろう人も〉 |
×悩みがあるだろう人も、 〈思ふことあらむ:口に出さないが不満なこと。根に持っていること。と言うこと自体、その一人が式部。一つに彰子の母・倫子とのエピソード〉 |
ただ今は 紛れぬべき 世のけはひなる うちにも、 |
この時ばかりは それを忘れてしまうほどの 雰囲気である 中でも、 |
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宮の大夫、 | 中宮大夫が、 | |
ことさらにも 笑みほこり たまはねど、 |
〈ことさらにも〉 得意げな笑みを浮かべて いらっしゃるわけではないが、 |
△格別に 〈殊更は過剰な・これみよがし・あからさまな意味がある〉 |
人よりまさる うれしさの、 |
誰よりまさる うれしさが、 |
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おのづから 色に出づるぞ ことわりなる。 |
自然と 〈顔色に出ているのは 無理からぬことである〉 |
△顔に現れているのが 〈はたから見るとかなりにやにやしてるだが、今はまあ仕方ないよね、の意〉 |
4 |
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右の宰相中将は 権中納言と たはぶれして、 |
右宰相中将兼隆は 権中納言隆家と 〈歓談して〉 |
【右の宰相中将】-藤原兼隆。 △冗談を言い交わして、 |
対の簀子に ゐたまへり。 |
東の対の簀子に 座っていらっしゃった。 |
【対の簀子】-東の対の西面の簀子〈すのこ〉。 |