①石作皇子天竺に佛の御石の鉢といふものあり。それをとりて給へ
②車持皇子東の海に蓬莱といふ山あンなり。それに白銀を根とし、黄金を莖とし、白玉を實としてたてる木あり。それ一枝折りて給はらん
③今一人(右大臣阿倍御主人・左大臣安倍のみむらじ)唐土にある、火鼠の裘(かはごろも)を給へ
④大伴大納言(大伴御行)龍(たつ)の首に五色に光る玉あり。それをとりて給へ
⑤石上中納言燕(つばくらめ)のもたる子安貝一つとりて給へ
竹取物語 (國民文庫) |
竹とりの翁物語 (群書類從) |
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128 | 日暮るゝほど、例の集りぬ。 | 日くるゝ程に例のあつまりぬ。 |
人々 | ||
129 | 或は笛を吹き、 | あるひは笛を吹。 |
130 | 或は歌をうたひ、 | 或はうたをうたひ。 |
131 | 或は唱歌をし、 | 或は琵琶しやうか(唱歌)をし。 |
132 |
或はうそを吹き、 扇をならしなどするに、 |
あるひはうそ・(をイ)ふき あふぎをならしなどするに。 |
133 | 翁出でていはく、 | 翁出ていはく。 |
134 |
辱くもきたなげなる所に、 年月を經て物し給ふこと、 |
忝もきたなげなる所に 年月を經てものし給ふ事。 |
135 | 極まりたるかしこまりを申す。 | きはまりたるかしこまりと申す。 |
136 | 翁の命今日明日とも知らぬを、 | 翁の命今日明日ともしらぬを。 |
137 | かくのたまふ君達(きみたち)にも、 | かくの給ふ君達にも。 |
138 |
よく思ひ定めて仕うまつれ。と申せば、 深き御心をしらではとなん申す。 さ申すも理なり。 |
よく思ひ定てつかふまつれと 申も理なり。 |
139 | いづれ劣勝おはしまさねば、 | いづれもをとり增りおはしまさねば。 |
140 |
ゆかしきもの見せ給へらんに、 御(おん)志のほどは見ゆべし。 |
御志の程はみゆべし。 |
141 | 仕うまつらんことは、 | つかふまつらん事は。 |
142 | それになむ定むべき。といふ。 | それになむ定むべきといへば。 |
143 | これ善きことなり。 | 是よき事なり。 |
144 | 人の恨もあるまじ。といへば、 | 人の御恨も有まじと云。 |
145 | 五人の人々もよきことなり。といへば、 | 五人の人々もよき事也といへば。 |
146 | 翁入りていふ。 | 翁入て云。 |
147 | かぐや姫、 | かぐや姫。 |
148 |
石作皇子には、 天竺に佛の御(み)石の鉢といふものあり。 |
石作の御子には ・(天竺にイ)佛の御いしのはちと云物あり。 |
149 | それをとりて給へ。といふ。 | それをとりて給へと云。 |
150 | 車持皇子には、 | 倉もちの御子には。 |
151 |
東(ひんがし)の海に 蓬莱といふ山あンなり。 |
東の海に 蓬萊と云山あり。 |
152 |
それに白銀を根とし、黄金を莖とし、 白玉を實としてたてる木あり。 |
それにしろがねを根として金をくきとし 白き玉をみとし・(てイ)たてる木あり。 |
153 | それ一枝折りて給はらん。といふ。 | それを一えだおりて給はらんと云。 |
154 | 今一人には、 | 今獨には。 |
155 |
唐土にある、 火鼠の裘(かはごろも)を給へ。 |
もろこしにある 火鼠の革ぎぬをたまへ。 |
156 | 大伴大納言には、 | 大とも(伴イ)の大納言には。 |
157 | 龍(たつ)の首に五色に光る玉あり。 | 龍のくびに五色に光る玉あり。 |
158 | それをとりて給へ。 | それをとりて給へ。 |
159 | 石上中納言には、 | 磯の上の中納言には。 |
160 |
燕(つばくらめ)のもたる 子安貝一つとりて給へ。といふ。 |
つばくらめのもたる こやすのかひ一つ(イ无)とりて給へといふ。 |
161 | 翁 | 翁。 |
162 | 難きことゞもにこそあンなれ。 | かたき事どもにこそあなれ。 |
163 | この國にある物にもあらず。 | 此國に有物にはあらず。 |
164 | かく難き事をばいかに申さん。といふ。 | かく難事をばいかに申さんといふ。 |
165 | かぐや姫、 | かぐや姫。 |
166 | 何か難からん。といへば、 | なにかかたからんといへば。 |
167 | 翁、 | 翁。 |
168 | とまれかくまれ申さん。とて、出でて | とまれかくまれ申さんとて出て。 |
169 |
かくなん、聞ゆるやうに見せ給へ。 といへば、 |
かくなむきこゆるやうに見たまへ といへば。 |
170 | 皇子達上達部聞きて、 | 御子たち上だちめ聞て。 |
171 |
おいらかに、あたりよりだになありきそ。 とやは宣はぬ。 |
おいらかにあたりよりだになありきそ とやはのたまはぬといひて。 |
172 | といひて、うんじて皆歸りぬ。 | うむじてみな歸ぬ。 |