原文 定家本 明融臨模本 |
現代語訳 (渋谷栄一) 各自要検討 |
注釈 【渋谷栄一】 各自要検討 |
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源氏の君は、 | 源氏の君は、 | |
主上の常に召しまつはせば、 | 主上がいつもお召しになって放さないので、 | |
心安く里住みもえしたまはず。 | 気楽に私邸で過すこともおできになれない。 | |
心のうちには、 | 心中では、 | |
ただ藤壺の御ありさまを、 | ひたすら藤壺のご様子を、 | |
類なしと思ひきこえて、 | またといない方とお慕い申し上げて、 | |
「さやうならむ人をこそ見め。 | 「そのような女性こそ妻にしたいものだ、 |
【さやうならむ人をこそ】 :以下「心にもつかず」まで源氏の心。 「心にもつかず」の下にいずれの諸本にも引用の格助詞「と」がなく、「心にもつかず」が「おぼえたまひて」を修飾する構文になっている。源氏の心をわざと韜晦させたものだろうか。心中文の文末が地の文に融合した形になっている。 |
似る人なくもおはしけるかな。 | 似た方もいらっしゃらないな。 | |
大殿の君、 | 大殿の姫君は、 | |
いとをかしげにかしづかれたる人とは見ゆれど、 | たいそう興趣ありそうに大切に育てられている方だと思われるが、 | |
心にもつかず」 | 少しも心惹かれない」 | |
おぼえたまひて、 | というように感じられて、 | |
幼きほどの心一つにかかりて、 | 幼心一つに思いつめて、 | |
いと苦しきまでぞおはしける。 | とても苦しいまでに悩んでいらっしゃるのであった。 |
【いと苦しきまでぞおはしける】 :係助詞「ぞ」と「おはしける」の間に「悩み」などの語が省略されている。 |