原文 定家本 明融臨模本 |
現代語訳 (渋谷栄一) 各自要検討 |
注釈 【渋谷栄一】 各自要検討 |
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先の世にも 御契りや 深かり けむ、 |
前世でも 御宿縁が 深かった のであろうか、 |
【先の世にも御契りや深かりけむ】 :「や」(係助詞、疑問)、「けむ」(過去推量の助動詞)、疑問の主体者は語り手。語り手の物語登場人物たちへの推測が挿入されている。 |
世になく 清らなる 玉の男御子 さへ 生まれ たまひぬ。 |
この世にまたとなく 美しい 玉のような男の御子 までが お生まれ になった。 |
【玉の男御子さへ生まれたまひぬ】 :「さへ」(副助詞)、語り手の驚嘆が言い込められた表現。 「玉」は当時の最高の美的形容。また「魂」とも通じて呪術的な霊力をもった意味もこめられている。 |
いつしかと 心もとながら せたまひて、 |
早く早くと じれったく おぼし召されて、 |
【いつしかと心もとながらせたまひて】 :主語は帝。 「いつしか」(連語、代名詞「いつ」+副助詞「し」強調の意+係助詞「か」疑問の意)は、これから起こることを待ち望む気持ち、を表す。 「せたまひて」は帝に対して用いられた最高敬語。 |
急ぎ 参らせて 御覧ずるに、 |
急いで 参内させて 御覧あそばすと、 |
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めづらかなる 稚児の 御容貌なり。 |
たぐい稀な 嬰児の お顔だちである。 |
【めづらかなる稚児の御容貌なり】 :「めづらかなる御容貌の稚児なり」の語順を変えて、「御容貌」を強調した表現。 |
一の皇子は、 右大臣の 女御の 御腹にて、 |
第一皇子は、 右大臣の 娘の女御が お生みになった方なので、 |
【一の皇子は右大臣の女御の御腹にて】 :第一親王は、右大臣の娘の弘徽殿女御がお産みになった、の意。この物語の主人公の兄。三歳年長(若菜下)。 |
寄せ 重く、 |
後見が しっかりしていて、 |
【寄せ重く】 :「寄せ」は心を寄せること、望みを託すこと。後見、支持の意。 「重し」は行き届いて十分であるさま。右大臣の娘ということで後見がしっかりしていて、それゆえ世間の信望も厚い、という状況。 |
疑ひなき 儲の君と、 |
正真正銘の 皇太子になられる君だと、 |
【疑ひなき儲の君と】 :この時点では、まだ皇太子は決定していない。 「正真正銘の皇太子として」の意。帝も即位してまだ歳月の浅いことが想像される。 |
世に もてかしづき きこゆれど、 |
世間でも 大切にお扱い 申し上げるが、 |
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この 御にほひには 並びたまふ べくも あらざりければ、 |
この御子の 輝く美しさには お並びに なりようも なかったので、 |
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おほかたの やむごとなき 御思ひにて、 |
一通りの 大切な お気持ちであって、 |
【おほかたのやむごとなき御思ひにて】 :主語は帝。第一皇子に対する思い。 |
この君をば、 | この若君の方を、 | |
私物に 思ほし かしづき たまふこと 限りなし。 |
自分の 思いのままに おかわいがり あそばされることは この上ない。 |