源氏物語・藤裏葉(ふじのうらば)巻の和歌20首を抜粋一覧化し、現代語訳と歌い手を併記、原文対訳の該当部と通じさせた。
内訳:7(夕霧=源氏嫡子)、4(内大臣=かつての頭中将)、2(雲居雁=夕霧妻・内大臣娘)、1×7(柏木=内大臣の子=現在の頭中将、藤典侍=惟光娘=夕霧愛人、雲居雁乳母、夕霧乳母、源氏、朱雀院、冷泉帝=源氏と藤壺の子)※最初と最後
即答 | 11首 | 40字未満 |
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応答 | 8首 | 40~100字未満 |
対応 | 0 | ~400~1000字+対応関係文言 |
単体 | 1首 | 単一独詠・直近非対応 |
※分類について和歌一覧・総論部分参照。
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上下の句に分割したバージョン。見やすさに応じて。
なお、付属の訳はあくまで通説的理解の一例なので、訳が原文から離れたり対応していない場合、より精度の高い訳を検討されたい。
原文 (定家本校訂) |
現代語訳 (渋谷栄一) |
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439 贈 |
わが宿の 藤の色濃き たそかれに 尋ねやは来ぬ 春の名残を |
〔内大臣:かつての頭中将〕わたしの家の 藤の花の色が濃い 夕方に 訪ねていらっしゃいませんか、 逝く春の名残を惜しみに |
440 答 |
なかなかに 折りやまどはむ 藤の花 たそかれ時の たどたどしくは |
〔夕霧=源氏嫡子〕かえって 藤の花を 折るのにまごつくのではないでしょうか 夕方時の はっきりしないころでは |
441 唱 |
紫に かことはかけむ 藤の花 まつより過ぎて うれたけれども |
〔内大臣:かつての頭中将〕紫色の せいにしましょう、 藤の花の 待ち過ぎてしまって 恨めしいことだが |
442 唱 |
いく返り 露けき春を 過ぐし来て 花の紐解く 折にあふらむ |
〔夕霧〕幾度も 湿っぽい春を 過ごして来ましたが 今日初めて花の開く お許しを得ることができました |
443 唱 |
たをやめの 袖にまがへる 藤の花 見る人からや 色もまさらむ |
〔柏木〕うら若い女性の 袖に見違える 藤の花は 見る人の立派なためか いっそう美しさを増すことでしょう |
444 贈 |
浅き名を 言ひ流しける 河口は いかが漏らしし 関の荒垣 |
〔雲居雁〕軽々しい浮名を 流した あなたの口は どうしてお漏らしになったのですか |
445 答 |
漏りにける 岫田の関を 河口の 浅きにのみは おほせざらなむ |
〔夕霧〕浮名が漏れたのは あなたの父大臣のせいでもありますのに わたしのせいばかりに なさらないで下さい |
446 贈:独 |
とがむなよ 忍びにしぼる 手もたゆみ 今日あらはるる 袖のしづくを |
〔夕霧→雲居雁〕お咎め下さいますな、 人目を忍んで 絞る手も力なく 今日は人目にもつきそうな 袖の涙のしずくを |
447 贈 |
何とかや 今日のかざしよ かつ見つつ おぼめくまでも なりにけるかな |
〔夕霧〕何と言ったのか、 今日のこの插頭は、 目の前に見ていながら 思い出せなくなるまでに なってしまったことよ |
448 答 |
かざしても かつたどらるる 草の名は 桂を折りし 人や知るらむ |
〔藤典侍:惟光娘・夕霧愛人〕頭に插頭してもなお はっきりと思い出せない 草の名は 桂を折られた あなたはご存知でしょう |
449 贈 |
浅緑 若葉の菊を 露にても 濃き紫の 色とかけきや |
〔夕霧〕浅緑色をした 若葉の菊を 濃い紫の花が咲こうとは 夢にも 思わなかっただろう |
450 答 |
双葉より 名立たる園の 菊なれば 浅き色わく 露もなかりき |
〔女君の大輔乳母=雲居雁乳母〕二葉の時から 名門の園に育つ 菊ですから 浅い色をしていると 差別する者など誰もございませんでした |
451 贈 |
なれこそは 岩守るあるじ 見し人の 行方は知るや 宿の真清水 |
〔夕霧〕おまえこそは この家を守っている主人だ、 お世話になった人の 行方は知っているか、 邸の真清水よ |
452 答 |
亡き人の 影だに見えず つれなくて 心をやれる いさらゐの水 |
〔雲居雁〕亡き人の 姿さえ映さず 知らない顔で 心地よげに流れている 浅い清水ね |
453 贈 |
そのかみの 老木はむべも 朽ちぬらむ 植ゑし小松も 苔生ひにけり |
〔内大臣:かつての頭中将〕その昔の 老木はなるほど 朽ちてしまうのも当然だろう 植えた小松にも 苔が生えたほどだから |
454 答 |
いづれをも 蔭とぞ頼む 双葉より 根ざし交はせる 松の末々 |
〔夕霧乳母〕どちら様をも 蔭と頼みにしております、 二葉の時から 互いに仲好く大きくおなりになった 二本の松でいらっしゃいますから |
455 贈 |
色まさる 籬の菊も 折々に 袖うちかけし 秋を恋ふらし |
〔源氏〕色濃くなった 籬の菊も 折にふれて 袖をうち掛けて 昔の秋を思い出すことだろう |
456 答 |
紫の 雲にまがへる 菊の花 濁りなき世の 星かとぞ見る |
〔内大臣:かつての頭中将〕紫の 雲と似ている 菊の花は 濁りのない世の中の 星かと思います |
457 贈 |
秋をへて 時雨ふりぬる 里人も かかる紅葉の 折をこそ見ね |
〔朱雀院〕幾たびの秋を経て、 時雨と共に年老いた 里人でも このように美しい紅葉の 時節を見たことがない |
458 答 |
世の常の 紅葉とや見る いにしへの ためしにひける 庭の錦を |
〔冷泉帝〕世の常の 紅葉と思って御覧になるのでしょうか 昔の 先例に倣った 今日の宴の紅葉の錦ですのに |