源氏物語・胡蝶(こちょう)巻の和歌14首を抜粋一覧化し、現代語訳と歌い手を併記、原文対訳の該当部と通じさせた。
内訳:4×2(若き人々:秋好中宮(斎宮)方女房/侍女、源氏)、2(玉鬘)、1×4(蛍兵部卿宮=源氏異母弟、紫上、斎宮、岩漏る中将:柏木(通説))※最初と最後
ここでは361の歌が滝廉太郎『花』で参照されている。そしてこれが贈答や独詠ではなく数少ない唱和、そして全編通し唯一の無名の「若き人々」による唱和ということも合唱曲に相応しく、感じ入る(そこまで踏まえたかは不明だが、むしろそうでない方が天性のセンスを感じる)。
即答 | 8首 | 40字未満 |
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応答 | 0 | 40~100字未満 |
対応 | 4首 | ~400~1000字+対応関係文言 |
単体 | 2首 | 単一独詠・直近非対応 |
※分類について和歌一覧・総論部分参照。
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上下の句に分割したバージョン。見やすさに応じて。
なお、付属の訳はあくまで通説的理解の一例なので、訳が原文から離れたり対応していない場合、より精度の高い訳を検討されたい。
原文 (定家本校訂) |
現代語訳 (渋谷栄一) |
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358 唱 |
風吹けば 波の花さへ 色見えて こや名に立てる 山吹の崎 |
〔若き人々〕風が吹くと 波の花までが 色を映して見えますが これが有名な 山吹の崎でしょうか |
359 唱 |
春の池や 井手の川瀬に かよふらむ 岸の山吹 そこも匂へり |
〔若き人々〕春の御殿の池は 井手の川瀬まで 通じているのでしょうか 岸の山吹が 水底にまで咲いて見えますこと |
360 唱 |
亀の上の 山も尋ねじ 舟のうちに 老いせぬ名をば ここに残さむ |
〔若き人々〕蓬莱 山まで訪ねて行く必要もありません この舟の中で 不老の名を 残しましょう |
361 唱 |
春の日の うららにさして ゆく舟は 棹のしづくも 花ぞ散りける |
〔若き人々〕春の日の うららかな中を漕いで 行く舟は 棹のしずくも 花となって散ります |
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362 贈 |
紫の ゆゑに心を しめたれば 淵に身投げむ 名やは惜しけき |
〔蛍兵部卿宮〕 ゆかりのある方に思いを 懸けていますので 淵に身を投げても 名誉は惜しくもありません |
363 答 |
淵に身を 投げつべしやと この春は 花のあたりを 立ち去らで見よ |
〔源氏〕淵に身を 投げるだけの価値があるかどうか この春の 花の近くを 離れないでよく御覧なさい |
364 贈 |
花園の 胡蝶をさへや 下草に 秋待つ虫は うとく見るらむ |
〔紫上〕花園の 胡蝶までを 下草に隠れて 秋を待っている松虫は つまらないと思うのでしょうか |
365 答 |
胡蝶にも 誘はれなまし 心ありて 八重山吹を 隔てざりせば |
〔斎宮〕胡蝶にも つい誘われたい くらいでした 八重山吹の 隔てがありませんでしたら |
366 贈:独 |
思ふとも 君は知らじな わきかへり 岩漏る水に 色し見えねば |
〔岩漏る中将、柏木(全集)→玉鬘〕 こんなに恋い焦がれていても あなたはご存知ないでしょうね 湧きかえって 岩間から溢れる水には 色がありませんから |
367 贈 |
ませのうちに 根深く植ゑし 竹の子の おのが世々にや 生ひわかるべき |
〔源氏〕邸の奥で 大切に育てた 娘も それぞれ結婚して 出て行くわけか |
368 答 |
今さらに いかならむ世か 若竹の 生ひ始めけむ 根をば尋ねむ |
〔玉鬘〕今さら どんな場合に わたしの 実の 親を探したりしましょうか |
369 贈 |
橘の 薫りし袖に よそふれば 変はれる身とも 思ほえぬかな |
〔源氏〕あなたを 昔懐かしい母君と 比べてみますと とても別の人とは 思われません |
370 答 |
袖の香を よそふるからに 橘の 身さへはかなく なりもこそすれ |
〔玉鬘〕懐かしい母君と そっくりだと思っていただくと わたしの 身までが同じようにはかなく なってしまうかも知れません |
371 贈:独 |
うちとけて 寝も見ぬものを 若草の ことあり顔に むすぼほるらむ |
〔源氏→玉鬘〕気を許しあって 共寝をしたのでもないのに どうしてあなたは 意味ありげな顔をして 思い悩んでいらっしゃるのでしょう |