匂宮の和歌全24首(贈17、答6、独詠0、唱和1)。
相手内訳:八宮次女:中の君9、八宮三女:通称浮舟6、薫3.1、紅梅大納言:柏木弟2、(八の宮、八宮長女:大君、女一の宮)1×3、(宰相の中将、衛門督、宮の大夫)0.1×3。唱和を0.1とした。
匂宮は能動性が際立ち、歌数の割に独詠が皆無で、内省をしない衝動的人物性を象徴している。
原文 (定家本) |
現代語訳 (渋谷栄一) |
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匂兵部卿(におうひょうぶきょう) 0/1首 |
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紅梅(こうばい) 2/4首 |
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592 答 |
花の香に 誘はれぬべき 身なりせば 風のたよりを 過ぐさましやは |
〔紅梅大納言:柏木弟→〕花の香に誘われそうな身であったら 風の便りをそのまま黙っていましょうか |
594 答 |
花の香を 匂はす宿に 訪めゆかば 色にめづとや 人の咎めむ |
〔紅梅→〕花の香を匂わしていらっしゃる宿に訪ねていったら 好色な人だと人が咎めるのではないでしょうか |
竹河 0/24首 |
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橋姫 0/13首 |
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椎本(しいがもと) 4/21首 |
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633 代答 |
遠方こちの 汀に波は 隔つとも なほ吹きかよへ 宇治の川風 |
〔八の宮:源氏の異母弟←(→薫)匂宮〕そちらとこちらの汀に波は隔てていても やはり吹き通いなさい宇治の川風よ |
634 贈 |
山桜 匂ふあたりに 尋ね来て 同じかざしを 折りてけるかな |
〔八宮次女:中の君←〕山桜が美しく咲いている辺りにやって来て 同じこの地の美しい桜を插頭しに手折ったことです |
638 贈 |
牡鹿鳴く 秋の山里 いかならむ 小萩が露の かかる夕暮 |
〔大君代作/中の君←〕牡鹿の鳴く秋の山里はいかがお暮らしでしょうか 小萩に露のかかる夕暮時は |
640 答 |
朝霧に 友まどはせる 鹿の音を おほかたにやは あはれとも聞く |
〔八宮長女:大君代作→〕朝霧に友を見失った鹿の声を ただ世間並にしみじみと悲しく聞いておりましょうか |
651 贈 |
つてに見し 宿の桜を この春は 霞隔てず 折りてかざさむ |
〔八宮次女:中の君←〕この前は、事のついでに眺めたあなたの桜を 今年の春は霞を隔てず手折ってかざしたい |
総角(あげまき) 6/31首 |
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659 贈 |
女郎花 咲ける大野を ふせぎつつ 心せばくや しめを結ふらむ |
〔薫←〕女郎花が咲いている大野に人を入れまいと どうして心狭く縄を張り廻らしなさるのか |
663 贈:独 |
世の常に 思ひやすらむ 露深き 道の笹原 分けて来つるも |
〔八宮次女:中の君←〕世にありふれたことと思っていらっしゃるのでしょうか 露の深い道の笹原を分けて来たのですが |
666 贈 |
中絶えむ ものならなくに 橋姫の 片敷く袖や 夜半に濡らさむ |
〔八宮次女:中の君←〕中が切れようとするのでないのに あなたは独り敷く袖は夜半に濡らすことだろう |
672 唱 |
秋はてて 寂しさまさる 木のもとを 吹きな過ぐしそ 峰の松風 |
〔宰相の中将+薫+衛門督+宮の大夫+匂宮〕秋が終わって寂しさがまさる木のもとを あまり烈しく吹きなさるな、峰の松風よ |
673 贈:独 |
若草の ね見むものとは 思はねど むすぼほれたる 心地こそすれ |
〔女一の宮(明石中宮娘・匂同腹)←〕若草のように美しいあなたと共寝をしてみようとは思いませんが 悩ましく晴れ晴れしない気がします |
674 贈 |
眺むるは 同じ雲居を いかなれば おぼつかなさを 添ふる時雨ぞ |
〔八宮次女:中の君←〕眺めているのは同じ空なのに どうしてこうも会いたい気持ちをつのらせる時雨なのか |
683 答 |
行く末を 短きものと 思ひなば 目の前にだに 背かざらなむ |
〔八宮次女:中の君←〕将来が短いものと思ったら せめてわたしの前だけでも背かないでほしい |
早蕨(さわらび) 1/15首 |
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686 贈 |
折る人の 心にかよふ 花なれや 色には出でず 下に匂へる |
〔薫←〕折る人の心に通っている花なのだろうか 表には現さないで内に匂いを含んでいる |
宿木(やどりぎ) 2/24首 |
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711 贈 |
また人に 馴れける袖の 移り香を わが身にしめて 恨みつるかな |
〔八宮次女:中の君←〕他の人に親しんだ袖の移り香か わが身にとって深く恨めしいことだ |
716 贈 |
穂に出でぬ もの思ふらし 篠薄 招く袂の 露しげくして |
〔八宮次女:中の君←〕外に現さないないが、物思いをしているらしいですね 篠薄が招くので、袂の露がいっぱいですね |
東屋 0/11首 |
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浮舟 6/22首 |
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735 贈 |
長き世を 頼めてもなほ 悲しきは ただ明日知らぬ 命なりけり |
〔八宮三女:通称浮舟←〕末長い仲を約束してもやはり悲しいのは ただ明日を知らない命であるよ |
737 贈 |
世に知らず 惑ふべきかな 先に立つ 涙も道を かきくらしつつ |
〔浮舟←〕いったいどうしてよいか分からない 先に立つ涙が道を真暗にするので |
741 贈 |
年経とも 変はらむものか 橘の 小島の崎に 契る心は |
〔浮舟←〕何年たとうとも変わりません 橘の小島の崎で約束するわたしの気持ちは |
743 贈 |
峰の雪 みぎはの氷 踏み分けて 君にぞ惑ふ 道は惑はず |
〔浮舟←〕峰の雪や水際の氷を踏み分けて あなたに心は迷いましたが、道中では迷いません |
745 贈 |
眺めやる そなたの雲も 見えぬまで 空さへ暮るる ころのわびしさ |
〔浮舟←〕眺めやっているそちらの方の雲も見えないくらいに 空までが真っ暗になっている今日このごろの侘しさです |
751 贈 |
いづくにか 身をば捨てむと 白雲の かからぬ山も 泣く泣くぞ行く |
〔浮舟←〕どこに身を捨てようかと捨て場も知らない、白雲が かからない山とてない山道を泣く泣く帰って行くことよ |
蜻蛉 1/11首 |
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757 答 |
橘の 薫るあたりは ほととぎす 心してこそ 鳴くべかりけれ |
〔薫→〕橘が薫っているところは、ほととぎすよ 気をつけて鳴くものですよ |
手習 0/28首 |
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夢浮橋(ゆめのうきはし) 0/1首 |
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