源氏物語 原文対訳~全体構造・大意の理解

    古典の改め
源氏物語
全体構造
光と影

 源氏物語(1000年頃)の全体像を原文と和歌の構造に即して把握する。

 

 巻別目次はこちらから。巻ごとのヒロイン・イベントを併記してある。

 

 光る源氏というイケメン王子を主人公にしつつ、様々な女性(美女・妻・人妻・幼女・不細工・老女・幼稚な箱入娘・田舎娘)を描き出す。女性に様々なモデルを提示し、主要人物に実名がなく(脇役には実名あり)専ら愛称や階級で人定することから、読者の世界を投影する余地が大きかったと思われる。

 

 一般に主人公は多情とされるが、平安中期の天皇皇族は10人以上の子がいるのが珍しくない中(桐壺で言及される宇多帝は20人以上、紫式部が仕えた彰子の夫の一条天皇は5人、道長は10人以上)、源氏の子は夕霧(葵)、冷泉帝(藤壺)、明石の姫君(明石)位で(この点でも源氏と道長は違う)、当時の貴族皇族の振舞いに照らせばという条件付きで見ればむしろ節度ある方の女性関係。つまり現実の貴族皇族ほどまでには、類型的に体の関係に持ち込んでないし数をこなしている訳でもない。

 また一般に、薫は源氏の子とみなされているが、薫が柏木の密通子でそれで柏木が死んだことは数巻使って描かれた重大事件。それを、皆かまととぶっているのか誰も知らない前提にしだすからその先の理解がおかしくなる。そんな認識だから、いざ見ようとすると紫式部は道長の夜の召人だったとか、世界的な知的先進女性を容易に侮辱する、世界でも底レベルのジェンダー発想をいかにも学問的な風に言い出す。式部は日記で夜扉を開けることを拒んで追い返しているのに。

  

 源氏の原文表記は、
「光君」 「光源氏」(新大系)、
「光る君」「光る源氏」(全集)、
「光る君」「光源氏」(旧大系)で分かれ、前者は桐壺、後者は帚木での呼称。旧大系表記が一般に通用している通説ではあるが、学説では全集表記も有力である。
 この点、「る」は偶然で本文に入らないこと、新大系の「光君」でひかるきみと読む必然がないこと、新旧大系の底本写本には疑問も呈されていることから、「光る」が本来と解する。「る」がなくなされてきたのは、歴代写本を記してきたのが漢語的男性学者であったからで、女性かな文学としては「光る」が本来と見るべきもの。これで一貫して説明でき、我ながらシンプルだが画期的研究成果と思う。

 

 さらに帚木の冒頭、物語のセオリー通り源氏の説明で始まる事からも、一般に言われるように桐壺は後から付加したものと見てよい。
 これに加え、桐壺の和歌が贈答またぐ贈答という他に終盤・浮舟にしかない顕著な技巧的構成であること、女性作品として顕著な最初の和歌が女性かつ独詠であることから(独自)、最後の集大成として桐壺を記したという他ない。こうした和歌の分析は私の顕著な研究成果と思う。

 

 人物の名称が、光源氏・惟光、光る君・輝く日の宮(藤壺)、正妻の葵・紫、薫・匂宮、光る・薫のように主要人物は多角的に対をなすことも特徴。

 この観点から、最初の空蝉と最後の浮舟は著者の投影と解すべきもの(独自。空蝉は碁を打つ後妻で、紫式部と符合する)。 

動画を作ってみました。
原文に忠実なオリジナルの訳をクラシック音楽のBGMと組み合わせた、これまでにない形となっています。
チャンネル登録して頂くほど続編制作が進みます、よろしくお願い致します。



 
全体構造・目次

 

光と影の理論:影を光とする誤った定義・背理を正す

 1影の字義=光との①対照+②非実体の形(投影

 2月影の解釈=月(光)と影=実体の①陰影+②幻影
  ①陰影は物理的(即物的)で、②幻影は概念的
  和歌では基本即物的ではなく概念的・象徴的に解する。

 ※幻を幻術士とする通説も即物的曲解で誤り。幻は夢

 3紫式部集1の月影=あの人(光)の②面影
 光を人に例えることは紫式部最大の特徴。それが隠れて影。

 藤壺の輝く日の宮と並ぶので、光る源氏はほのかな月光
 「月かな」とする百人一首57は影を解せない集団的骨抜き

紫の由来
 学説は紫式部は紫の上に由来するとし、それ以上の説明はない。
 紫の上:伊勢41段(紫・上の衣)。そして源氏の話は41巻まで。
 若紫のすりごろも:伊勢初段最初の和歌。若紫は紫上の初出の巻名。
 よって紫式部の紫の由来は伊勢物語、という以外に通る説明はない
 源氏物語が竹取・伊勢(虚構・現実の歌物語)の総合という成立論
 それを体現し言及した絵合からも伊勢物語と無関係というのは無理

主な登場人物のモデル
 伊勢・竹取で一貫して説明可能。

 葵=早世した伊勢24段梓弓の妻。六条御息所=二条の后。

 二条の后に仕えた無名男+かぐや=光る君+輝く日の宮。文屋と小町。

 かぐや=小町針(男拒絶物語)。小町は衣通姫(光を放つ姫)のりう。

 古今和歌集で文屋と小町は表裏一体。そして六歌仙として伝説の存在。

 文屋小町敏行のみ巻先頭連続:秋下恋二物名、業平を敏行で崩す恋三。
 源融・光孝・源高明・道長説では、藤壺と並ぶ点で統一的に理解不能

和歌一覧(795首。源氏物語の核心要素)
 源氏222首。頭中将17、夕霧37(第三部+1)
 文屋22、業平(中将)17、朝康37とする百人一首。
 百人一首の定家は伊勢・源氏の写本の大家。
各巻別和歌内訳
 第一部・第二部:源氏と夕霧の物語
 第三部:薫と浮舟の物語(浮舟は終盤で薫を凌ぐ)
 和歌を基準にするとこう言えるし、物語構成にも即す
原文全文(語句検索用)
 約82万字。句読点等含めると92万字。文庫本8冊程度。
文字数の推移と和歌の配置(グラフ)

各巻別目次

 

  第一部 第二部 第三部
  紫の夢
(唯一の男)
最高
1-33
夢の終わり
(の始まり)
死亡
34-41
憂世と浮舟
(現実の男)
最悪
42-54

 

巻題 ヒロイン・イベント

第一部

 
  生立ちと遍歴  
1 桐壺 藤壺(かがやく日の宮)・葵(妻)
2 帚木
(ははきぎ)
空蝉(年増人妻) 雨夜の品定め
3 空蝉 空蝉・軒端荻(空蝉の継娘)
4 夕顔 夕顔(中将愛人)・六条御息所・空蝉
5 若紫 紫・藤壺
6 末摘花
(すえつむはな)
末摘花・紫
7 紅葉賀
(もみじのが)
藤壺・紫・源典侍
8 花宴
(はなのえん)
朧月夜
9 六条・葵・紫・源典侍 車争い
10 賢木
(さかき)
六条・藤壺・朧月夜
11 花散里
(はなちるさと)
花散里
 
  須磨流寓から都へ  
12 須磨 花散里・藤壺・朧月夜
13 明石 明石
14 澪標
(みおつくし)
明石・六条・斎宮
15 蓬生
(よもぎう)
末摘花
16 関屋 空蝉
17 絵合
(えあわせ)
斎宮=梅壺 竹取伊勢論争・学問
18 松風
(まつかぜ)
明石・紫
19 薄雲
(うすぐも)
明石・藤壺・斎宮・紫
20 朝顔 朝顔(源氏の従妹)・紫・藤壺・源典侍
21 乙女
(少女・おとめ)
朝顔・斎宮
[雲居雁=中将娘・五節舞姫=惟光娘]
  []は夕霧=大学寮試・史記
  玉鬘十帖
(余興)
 
22 玉鬘
(たまかずら)
玉鬘(=夕顔×中将)・末摘花 和歌論
23 初音 紫・明石・花散里
・玉鬘・末摘花・空蝉
24 胡蝶 玉鬘・紫
25 玉鬘・花散里・紫 物語論
26 常夏 玉鬘・近江君(中将娘) 和琴談
27 篝火
(かがりび)
近江君・玉鬘
28 野分
(のわき)
紫・斎宮・明石・玉鬘・花散里
[雲居雁・明石姫君]
29 行幸
(みゆき)
玉鬘・近江君
30 藤袴
(ふじばかま)
玉鬘
31 真木柱
(まきばしら)
玉鬘・近江君
※真木柱=髭黒娘で玉鬘の継娘
  六条院と栄華
(夕霧の物語)
 
32 梅枝
(うめがえ)
明石姫君・[雲居雁] 古万葉と古今
33 藤裏葉
(ふじのうらば)
[雲居雁]・明石姫君
 

第二部

 
  女三宮降嫁
34 若菜上 女三宮・紫・玉鬘
・朧月夜・明石・斎宮 昔語り
35 若菜下 女三宮・真木柱・紫
・花散里・玉鬘・明石
・[女二宮]・六条・朧月夜 音楽春秋論
36 柏木 女三宮
37 横笛 ― (柏木の形見を夕霧が整理)
38 鈴虫 女三宮・斎宮
39 夕霧 [落葉宮・雲居雁]
 
  源氏の死
40 御法
(みのり)
紫の死・明石・花散里・明石姫君・斎宮
41 女三宮・明石・花散里
雲隠 紫式部集1「雲隠れにし夜半の月影」
匂宮冒頭「光隠れたまひにし後、かの御影」
 

第三部

 
  匂宮三帖
42 匂兵部卿
(匂宮)
女一宮・六の君
43 紅梅
(こうばい)
紅梅の長女・二女・宮の御方
44 竹河
(たけかわ)
紅梅の長女・二女
 
  宇治十帖
45 橋姫 八の宮長女・二女
46 椎本
(しいがもと)
八の宮長女・二女
47 総角
(あげまき)
八の宮長女・二女・六の君
48 早蕨
(さわらび)
八の宮二女・六の君
49 宿木
(やどりぎ)
女二宮・八の宮二女・六の君・浮舟
50 東屋 八の宮三女(読者通称:浮舟)
51 浮舟 浮舟
52 蜻蛉 浮舟・女一宮・宮の君
53 手習 浮舟
54 夢浮橋
(夢の浮橋)
浮舟

 

 

 

 
 各部内の区分は、Wikipedia『源氏物語各帖のあらすじ』参照。
 
 

 
 本ページは、高千穂大名誉教授・渋谷栄一氏の『源氏物語の世界』(目次構成・登場人物・原文・訳文)を参照引用している。
 以下同サイトから引用。 
 

【ご利用の皆様へ】
 わたしは、インターネットの最大限の利点を活かして、日本の代表的古典文学作品である「源氏物語」を、誰でもが、何時でも、何処からでも、自由に、読むことができて、しかも、使い易く、信頼できる、内容のあるコンテンツを提供したいと念じています。併せて、メールによって利用者との相互交流を大切にしていきたいとも思っています。したがって、わたしはweb上に公開したわたしの著作物に対して、著作権や知的財産権などを主張しようとは考えません。利用者の良識によって、広くいろいろと利用されさまざまに活用されることを願っていますので、わたしの著作物に関するダウンロードや加工なども自由です。生物が一つの生命から発生してさまざまな形態に進化を遂げていったように、わたしの作成したコンテンツからさらにより優れたコンテンツが生まれ出てくることを期待しています。一人の人間の力、一個の個体にはおのずと限界があります。このコンテンツがもしこの世に有益なものであれば、これを時空を超えて次の世代へと受け継いで永遠に発展していってもらいたいと願っているのです。(2001年1月1日)

 
 以上を受け、一般人が最も容易かつ網羅的に参照できる源氏研究最大の成果として、原文と現代語訳のページを統合した。
 元の表記に極力干渉しないように(注記する場合、それとわかるように括弧や色づけをし)、レイアウトを整えた。
 また和歌の表記を上下・575で整えた。
 これにより源氏原文へのアクセスと理解がさらに容易になったと思う。
 

 全文引用した目的は、現状の学術的見解の一つの到達点・総合集約として参照すること。
 それにより大意・構造の現状の理解を速やかに把握し、検討する細部は、訳を参考にしつつ、自分で原文を読解することある。

 この分量を一から訳出することはおよそ実際的ではないし、また全訳と同時に完璧さまで求めることも、全く現実的ではない。
 

 思うに、逐語解と大意から通す(筋を通す)ことの思考回路は全く異なる。いわば左脳と右脳で、帰納と演繹。
 ひたすら品詞分解しても筋は全く通せない。いわゆる群盲象を評す。その心は全体像が見えない。

 細部の議論を知るほど、源氏物語を正しく知ったと思うのは論理的に誤り。
 
 

文字数の推移と和歌の配置

 
文字数集計
  多い巻:後半偏重      少ない巻
文字数   文字数
1 34 若菜上 44585   27 篝火 1412
2 35 若菜下 44273   11 花散里 1627
3 49 宿木 40705   16 関屋 1945
4 47 総角 38698   8 花宴 4388
5 39 夕霧 30711   3 空蝉 4674
6 51 浮舟 30170   43 紅梅 5504
7 53 手習 28917   42 匂兵部卿 6057
8 50 東屋 27926   38 鈴虫 6060
9 52 蜻蛉 24682   23 初音 6076
10 21 乙女 21745   30 藤袴 6171