名を聞くより、やがて面影は推しはからるる心地するを、見るときは、また、かねて思ひつるままの顔したる人こそなけれ。 昔物語を聞きても、このごろの人の家の、そこほどにてぞありけんと覚え、人も、今見る人の中に思ひよそへらるるは、たれもかく覚ゆるにや。
また、いかなるをりぞ、ただいま人の言ふことも、目に見ゆるものも、わが心のうちも、かかることのいつぞやありしかと覚えて、いつとは思ひいでねども、まさしくありし心地のするは、我ばかりかく思ふにや。