大納言法印の召し使ひし乙鶴丸、やすら殿といふ者を知りて、常に行き通ひしに、ある時出でて帰り来たるを、法印、「いづくへ行きつるぞ」と問ひしかば、「やすら殿のがりまかりて候ふ」と言ふ。 「そのやすら殿は、男か法師か」とまた問はれて、袖かきあはせて、「いかが候ふらん。頭をば見候はず」と答へ申しき。 などか頭ばかりの見えざりけん。