尹大納言光忠入道、追儺の上卿をつとめられけるに、洞院の右大臣殿に次第を申し請けられければ、「又五郎男を師とするより外の才覚候はじ」とぞ、宣ひける。 かの又五郎は、老いたる衛士の、よく公事になれたる者にてぞありける。 近衛殿着陣し給ひける解き、軾を忘れて、外記を召されければ、火たきて候ひけるが、「まづ軾を召さるべく候ふらん」と、しのびやかにつぶやきける、いとをかしかりけり。