これも今は昔、天暦のころほひ、浄蔵が八坂の坊に、強盗その数入り乱れたり。 然るに火をともし、太刀を抜き、目を見張りて、おのおの立ちすくみて、さらにする事なし。 かくて数刻を経。 夜やうやう明けんとする時、ここに浄蔵、本尊に啓白して、「早く許し遣はすべし」と申しけり。 その時に盗人ども、いたづらにて逃げ帰りけるとか。