♪三条の右大臣(藤原定方:百人一首25歌人)
♪♀通ひ給ひける女=よしある女
三条の右大臣、
中将にいますかりける時、
祭の使にさされていでたち給ひけり。
通ひ給ひける女の、絶えて久しくなりにけるに、
「かかることにてなむ、いでたつ。
扇もたるべかりけるを、さわがしうてなむ、忘れにける。
ひとつ給へ」
といひやり給へりける。
よしある女なりければ、
よくておこせてむ、と思ひ給ひけるに、
色などもいと清らなる扇の、香などもいとかうばしくて、おこせたる。
ひき返したる裏のはしの方に、書きたりける。
♪135
ゆゆしとて 忌むとも今は かひもあらじ
憂きをばこれに 思ひ寄せてむ
とあるを見て、いとあはれとおぼして、
返し、
♪136
ゆゆしとて 忌みけるものを わがために
なしといはぬは たがつらきなり