♪兵衛の尉
♪♪♪♀この女ども=女=おなじ人
兵衛の尉、離れてのち、
臨時の祭りの舞人にさされていきけり。
この女ども、物見にいでたり。
さて、帰りてよみてやりける。
♪176
むかし着て なれしをすれる 衣手を
あなめづらしと よそに見しかな
かくて兵衛の尉、山吹につけておこせたりける。
♪177
もろともに 井手の里こそ 恋しけれ
ひとりをり憂き 山吹の花
となむ。返しは知らず。
かくて、これは、女、通ひける時に、
♪178
大空も ただならぬかな 神無月
われのみしたに しぐると思へば
これも、おなじ人、
♪179
あふことの なみの下草 みがくれて
しづ心なく 音こそ泣かるれ