♪♪♪♪♪故兵部卿の宮=親王=おなじ宮(陽成天皇第一皇子元良親王:894-943。百人一首20歌人)
♪♪♪♪♀この女(平中興の娘)
♪♀知らぬ女
故兵部卿の宮、
この女のかかること、まだしかりける時、
よばひ給ひけり。
親王、
♪160
荻の葉の そよぐごとにぞ 恨みつる
風にうつりて つらき心を
これも、おなじ宮、
♪161
あさくこそ 人は見るらめ 関川の
絶ゆる心は あらじとぞ思ふ
女、返し、
♪162
関川の 岩間をくぐる みづあさみ
絶えぬべくのみ 見ゆる心を
かくて、いでてもの聞こえなどすれど、あはでのみありければ、
親王、おはしましたりけるに、
月のいとあかかりければ、詠み給ひける。
♪163
夜な夜なに いづと見しかど はかなくて
入りにし月と いひてやみなむ
と宣ひけり。
かくて扇をおとし給へりけるを、とりて見れば、
知らぬ女の手にて、かく書けり。
♪164
忘らるる 身はわれからの あやまちに
なしてだにこそ 君を恨みね
と書けりけるを見て、
そのかたはらに書きつけて奉りける。
♪165
ゆゆしくも おもほゆるかな 人ごとに
うとまれにける 世にこそありけれ
となむ。
また、この女、
♪166
忘らるる ときはの山の 音をぞなく
秋野の虫の 声にみだれて
返し、
♪167
なくなれど おぼつかなくぞ おもほゆる
声聞くことの 今はなければ
また、おなじ宮、
♪168
雲居にて よをふるころは さみだれの
あめのしたにぞ 生けるかひなき
返し、
♪169
ふればこそ 声も雲居に 聞こえけめ
いとどはるけき 心地のみして