内舎人
♀女どもわらはべ
♀いとをかしげなる子
むかし、内舎人なりける人、おほうわの御幣使に、大和国に下りけり。
井手といふわたりに、清げなる人の家より、女どもわらはべいで来て、このいく人を見る。
きたなげなき女、いとをかしげなる子を抱きて、門のもとに立てり。
この児の顔のいとをかしげなりければ、目をとどめて、
「その子、こち率て来」
といひければ、この女寄り来たり。
近くて見るに、いとをかしげなりければ、
「ゆめ、こと男したまふな。
われにあひたまへ。
おほきになりたまはむほどにまゐり来む」
といひて、
「これをかたみにしたまへ」
とて、帯をときてとらせけり。
さて、この子のしたりける帯をときてとりて、もたりける文にひき結ひてもたせていぬ。
この子、とし六、七ばかりありけり。
この男、色好みなりける人なれば、いふになむありける。
これをこの子は忘れず思ひもたりけり。
男ははやう忘れにけり。
かくて七、八年ばかりありて、また、おなじ使にさされて大和へいくとて、
井手のわたりに宿りゐて見れば、前に井なむありける。
それに水くむ女どもあるがいふやう、
(以降切断)