♪男
♪♀女
大和の国なりける人のむすめ、いと清らにてありけるを、
京より来たりける男の、かいまみて見けるに、いとをかしげなりければ、
盗みて、かき抱きて、馬にうちのせて逃げていにけり。
いとあさましうおそろしう、思ひけり。
日暮れて、龍田山に宿りぬ。
草の中にあふりをときしきて、女を抱きてふせり。
女、おそろしと思ふことかぎりなし。
わびしと思ひて、男のものいへど、いらへもせで泣きければ、
男、
♪259
たがみそぎ ゆふつけどりか 唐衣
たつたの山に をりはへてなく
女、返し、
♪260
龍田川 岩根をさして ゆく水の
ゆくへも知らぬ わがごとやなく
とよみて死にけり。
いとあさましうてなむ、男抱きもちて泣きける。