♪おなじ人=大七(藤原忠文の息子。未詳)
♪♪♀監の命婦(諸説あり)
おなじ人に、
監の命婦、山ももをやりたりければ、
♪100
みちのくの 安達の山も もろともに
こえばわかれの 悲しからじを
となむいひける。
さて、堤なる家になむすみける。
さて鮎をなむとりてやりける。
♪101
賀茂川の 瀬にふす鮎の いをとりて
寝でこそあかせ 夢に見えつや
かくて、この男、
陸奥国へ下りけるたよりにつけて、あはれなる文どもを書きおこせけるを、
「道にて病してなむ死にける」と聞きて、
女いとあはれとなむ思ひける。
かく聞きてのち、篠塚の駅といふ所より、
たよりにつけて、あはれなることどもを書きたる文をなむ、もて来たりける。
いと悲しくて、これを「いつのぞ」と問ひければ、
使の久しくなりて、もて来たるになむありける。
女、
♪102
篠塚の うまやうまやと 待ちわびし
君はむなしく なりぞしにける
とよみてなむ泣きける。
童にて殿上して、大七といひけるを、
かうぶりして、蔵人所にをりて、金の使かけて、
やがて親のともにいくになむありける。