平中(平貞文)
♪♀若き女(不明)
♀妻
平中、
にくからず思ふ若き女を、妻のもとに率て来ておきたりけり。
にくげなることどもをいひて、妻つひに追ひ出だしけり。
この妻にしたがふにやありけむ、
らうたしと思ひながらえとどめず。
いちはやくいひければ、ちかくだに寄らで、
四尺の屏風に寄りかかりて立てりていひける、
「世の中の、かく思ひのほかにあること。
世界にものし給ふとも、忘れで消息し給へ。
おのれも、さなむ思ふ」
といひけり。
この女、
つつみに物などつつみて、車とりにやりて待つほどなり。
いとあはれと思ひけり。
さて女いにけり。
とばかりありておこせたりける。
♪90
忘らるな 忘れやしぬる 春がすみ
今朝たちながら 契りつること