野大弐(小野好古)
♪近江守 公忠の君(源公忠)
野大弐、
純友が騒ぎの時、討手の使にさされて、少将にて下りけり。
公にも仕うまつる、四位にもなりぬべき年に当たりければ、
正月の加階賜りの事、いとゆかしうおぼえけれど、京より下る人もをさをさ聞こえず。
ある人に問へば、「四位になりたり」ともいふ。
ある人は「さもあらず」といふ。
定かなる事いかで聞かむと思ふほどに、
京に便りあるに、近江守公忠の君の文をなむ持て来たる。
いとゆかしう嬉しうて、あけて見れば、
よろづの事ども書きもていきて、月日など書きて、
奧の方にかくなむ、
♪7
玉くしげ ふたとせ逢はぬ 君が身を
あけながらやは あらむと思ひし
これを見てなむ、限りなく悲しくてなむ泣きける。
四位にならぬよし、文の詞にはなくて、ただかくなむありける。