帝(宇多天皇)
♪橘良利=良利大徳=寛蓮大徳
帝、おりゐ給ひて
またの年の秋、御髪おろし給ひて、
ところどころ山ぶみし給ひて行ひ給ひけり。
備前の掾にて橘良利といひける人、
内裏におはしましける時、殿上に候ひける、
御髪おろし給ひければ、やがて御ともに、かしらおろししてけり。
人にも知られ給はで、ありき給うける御供に、これなむ遅れ奉らで候ひける。
「かかる御ありきし給ふ、いとあしきことなる」
とて、内裏より、
「少将、中将、これかれ、候へ」
とて奉れ給ひけれど、
たがひつつありき給ふ。
和泉の国に至り給うて、日根といふ所におはします夜あり。
いと心細う、かすかにておはしますことを思ひつつ、
いと悲しかりけり。
さて、
「日根といふことを歌によめ」
と仰せごとありければ、
この良利大徳、
♪3
ふるさとの 旅寝の夢に 見えつるは
うらみやすらむ またととはねば
とありけるに、
みな人泣きて、えよまずなりにけり。
その名をなむ、寛蓮大徳といひて、のちまで候ひける。