原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
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御祖答曰。 | 御祖の答へて曰はく、 | 母親が言うには、 |
我御世之事。 | 「我が御世の事、 | 「わたしたちの世の事は、 |
能許曾 〈此二字以音〉 神習。 |
能くこそ 神習はめ。 |
すべて 神の仕業に習うものです。 |
又宇都志岐青人草習乎。 | またうつしき青人草習へや、 | それだのにこの世の人の仕業に習つてか、 |
不償其物。 | その物償はぬ」といひて、 | その物を償わない」と言つて、 |
恨其兄子。 | その兄なる子を恨みて、 | その兄の子を恨んで、 |
乃取其 伊豆志河之 河嶋節竹而。 |
すなはちその 伊豆志河いづしかはの 河島の一節竹よだけを取りて、 |
イヅシ河の 河島の節のある竹を取つて、 |
作八目之荒籠。 |
八やつ目めの 荒籠あらこを作り、 |
大きな目の 荒い籠を作り、 |
取其河石。 | その河の石を取り、 | その河の石を取つて、 |
合鹽而。 | 鹽に合へて、 | 鹽にまぜて |
裹其竹葉。 | その竹の葉に裹み、 | 竹の葉に包んで、 |
令詛言。 | 詛言とこひいはしめしく、 | 詛言のろいごとを言つて、 |
如此竹葉青。 | 「この竹葉たかばの青むがごと、 | 「この竹の葉の青いように、 |
如此竹葉萎而。 | この竹葉の萎しなゆるがごと、 | この竹の葉の萎しおれるように、 |
青萎。 | 青み萎えよ。 | 青くなつて萎れよ。 |
又如此 鹽之盈乾而。 |
またこの 鹽の盈みち乾ふるがごと、 |
またこの 鹽の盈みちたり乾ひたりするように |
盈乾。 | 盈ち乾ひよ。 | 盈ち乾よ。 |
又如此 石之沈而。沈臥。 |
またこの 石の沈むがごと、沈み臥せ」と |
またこの 石の沈むように沈み伏せ」と、 |
如此令詛 置於烟上。 |
かく詛とこひて、 竈へつひの上に置かしめき。 |
このように詛のろつて、 竈かまどの上に置かしめました。 |
是以其兄。 | ここを以ちてその兄 | それでその兄が |
八年之間。 | 八年の間に | 八年もの間、 |
于萎病枯。 | 干かわき萎え病み枯れき。 | 乾かわき萎しおれ病やみ伏ふしました。 |
故其兄患泣。 | かれその兄患へ泣きて、 | そこでその兄が、 |
請其御祖者。 | その御祖に請ひしかば、 | 泣なき悲しんで願いましたから、 |
即令返其詛戸。 | すなはちその詛戸とこひどを返さしめき。 | その詛のろいの物をもとに返しました。 |
於是其身 如本以安平也。 |
ここにその身 本の如くに安平やすらぎき。 |
そこでその身が もとの通りに安らかになりました。 |
〈此者 神宇禮豆玖 之言本者也〉 |
(こは 神うれづく といふ言の本なり) |