原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
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故 天皇崩之後。 |
かれ 天皇崩かむあがりましし後に、 |
かくして 天皇がお崩かくれになつてから、 |
大雀命者。 | 大雀の命は、 | オホサザキの命は |
從天皇之命。 | 天皇の命のまにまに、 | 天皇の仰せのままに |
以天下。 | 天の下を | 天下を |
讓宇遲能和紀郎子。 | 宇遲の和紀郎子に讓りたまひき。 | ウヂの若郎子に讓りました。 |
謀反 |
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於是大山守命者。 | ここに大山守の命は、 | しかるにオホヤマモリの命は |
違天皇之命。 | 天皇の命に違ひて、 | 天皇の命に背いて |
猶欲獲天下。 | なほ天の下を獲むとして、 | やはり天下を獲えようとして、 |
有殺 其弟皇子之情。 |
その弟皇子おとみこを 殺さむとする心ありて、 |
その弟の御子を 殺そうとする心があつて、 |
竊設兵 將攻。 |
竊みそかに兵つはものを設まけて 攻めむとしたまひき。 |
竊に兵士を備えて 攻めようとしました。 |
vs大雀(仁徳)・宇遲の和紀郎子 |
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爾大雀命。 | ここに大雀の命、 | そこでオホサザキの命は |
聞 其兄備兵。 |
その兄の軍を備へたまふことを 聞かして、 |
その兄が軍をお備えになることを お聞きになつて、 |
即遣使者。 | すなはち使を遣して、 | 使を遣つて |
令告宇遲能和紀郎子。 | 宇遲の和紀郎子に告げしめたまひき。 | ウヂの若郎子に告げさせました。 |
故聞驚。 | かれ聞き驚かして、 | 依つてお驚きになつて、 |
以兵伏河邊。 | 兵を河の邊べに隱し、 | 兵士を河のほとりに隱し、 |
亦其山之上。 | またその山の上に、 | またその山の上に |
張施垣 立帷幕。 |
きぬがきを張り、 帷幕あげばりを立てて、 |
テントを張り、 幕を立てて、 |
詐以。 | 詐りて、 | 詐つて |
舍人爲王。 | 舍人とねりを王になして、 | 召使を王樣として |
露坐呉床。 | 露あらはに呉床あぐらにませて、 | 椅子にいさせ、 |
百官。 | 百官つかさづかさ、 | 百官が |
恭敬往來之状。 | 敬ゐやまひかよふ状、 | 敬禮し往來する樣は |
既如 王子之坐所而。 |
既に 王子のいまし所の如くして、 |
あたかも 王のおいでになるような有樣にして、 |
更爲其兄王。 | 更にその兄王の | また兄の王の |
渡河之時。 | 河を渡りまさむ時のために、 | 河をお渡りになる時の用意に、 |
具餝船楫。 | 船かぢを具へ飾り、 | 船ふねかじを具え飾り、 |
者舂佐那 〈此二字以音〉 葛之根。 |
また佐那葛 さなかづらの根を 臼搗うすづき、 |
さな葛かずらという 蔓草の根を 臼でついて、 |
取其汁滑而。 | その汁の滑なめを取りて、 | その汁の滑なめを取り、 |
塗其船中之 簀椅。 |
その船の中の 簀椅すばしに塗りて、 |
その船の中の 竹簀すのこに塗つて、 |
設蹈應仆而。 | 蹈みて仆るべく設まけて、 | 蹈めば滑すべつて仆れるように作り、 |
其王子者。 | その王子は、 | 御子は |
服布衣褌。 | 布たへの衣褌きぬはかまを服きて、 | みずから布の衣裝を著て、 |
既爲賎人之形。 | 既に賤人やつこの形になりて、 | 賤しい者の形になつて |
執楫立船。 | かぢを取りて立ちましき。 | 棹を取つて立ちました。 |