原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
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故獻大御饗之時。 | かれ大御饗みあへ獻たてまつる時に、 | そこで御馳走を奉る時に、 |
其女 矢河枝比賣。(命) |
その女 矢河枝やかはえ比賣の命に |
そのヤガハエ姫に |
令取大御酒盞 而獻。 |
大御酒盞を取らしめて 獻る。 |
お酒盞さかずきを取らせて 獻りました。 |
於是天皇。 | ここに天皇、 | そこで天皇が |
任令取其大御酒盞 | その大御酒盞を取らしつつ、 | その酒盞をお取りになりながら |
而御歌曰。 | 御歌よみしたまひしく、 | お詠み遊ばされた歌、 |
許能迦邇夜 伊豆久能迦邇 | この蟹かにや 何處いづくの蟹。 | この蟹かにはどこの蟹だ。 |
毛毛豆多布 都奴賀能迦邇 | 百傳ふ 角鹿つぬがの蟹。 | 遠くの方の敦賀つるがの蟹です。 |
余許佐良布 伊豆久邇伊多流 | 横よこさらふ 何處に到る。 | 横歩よこあるきをして何處へ行くのだ。 |
伊知遲志麻 美志麻邇斗岐 | 伊知遲いちぢ島 美み島に著とき、 | イチヂ島・ミ島について、 |
美本杼理能 迦豆伎伊岐豆岐 | 鳰鳥みほどりの 潛かづき息衝き、 | カイツブリのように水に潛くぐつて息いきをついて、 |
志那陀由布 佐佐那美遲袁 | しなだゆふ 佐佐那美道ささなみぢを | 高低のあるササナミへの道を |
須久須久登 和賀伊麻勢婆夜 | すくすくと 吾わが行いませばや、 | まつすぐにわたしが行ゆきますと、 |
許波多能美知邇 阿波志斯袁登賣 | 木幡こはたの道に 遇はしし孃子をとめ、 | 木幡こばたの道で出逢つた孃子おとめ、 |
宇斯呂傳波 袁陀弖呂迦母 | 後方うしろでは 小楯をだてろかも。 | 後姿うしろすがたは楯のようだ。 |
波那美波志 比斯那須 | 齒並はなみは 椎菱しひひしなす。 | 齒竝びは椎しいの子みや菱ひしの實のようだ。 |
伊知比韋能 和邇佐能邇袁 | 櫟井いちゐの 丸邇坂わにさの土にを、 | 櫟井いちいの丸邇坂わにさかの土つちを |
波都邇波 波陀阿可良氣美 | 初土はつには 膚赤らけみ | 上うえの土つちはお色いろが赤い、 |
志波邇波 邇具漏岐由惠 | 底土しはには に黒き故、 | 底の土は眞黒まつくろゆえ |
美都具理能 曾能那迦都爾袁 | 三栗みつぐりの その中つ土にを | 眞中まんなかのその中の土を |
加夫都久 麻肥邇波阿弖受 | 頭著かぶつく 眞火には當てず | かぶりつく直火じかびには當てずに |
麻用賀岐 許邇加岐多禮 | 眉畫まよがき 濃こに書き垂れ | 畫眉かきまゆを濃く畫いて |
阿波志斯袁美那 | 遇はしし女をみな。 | お逢あいになつた御婦人、 |
迦母賀登 和賀美斯古良 | かもがと 吾わが見し兒ら | このようにもとわたしの見たお孃さん、 |
迦久母賀登 阿賀美斯古邇 | かくもがと 吾あが見し兒に | あのようにもとわたしの見たお孃さんに、 |
宇多多氣陀邇 牟迦比袁流迦母 | うたたけだに 向ひ居をるかも | 思いのほかにも向かつていることです。 |
伊蘇比袁流迦母 | い副そひ居るかも。 | 添つていることです。 |
如此御合 生御子。 |
かくて御合みあひまして、 生みませる御子、 |
かくて御結婚なすつて お生うみになつた子が |
宇遲能和紀 〈自宇下五字以音〉 郎子也。 |
宇遲うぢの 和紀郎子 わきいらつこなり。 |
ウヂの 若郎子 わきいらつこでございました。 |