原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
---|---|---|
1伊那賀良の歌 |
||
於是坐 倭后等。 及御子等。 |
ここに倭やまとにます 后たち、また御子たち |
ここに大和においでになる お妃たちまた御子たちが |
諸。下到而。 | もろもろ下りきまして、 | 皆下つておいでになつて、 |
作御陵。 | 御陵を作りき。 | 御墓を作つて |
即匍匐廻 其地之 那豆岐田 〈自那下 三字以音〉而。 |
すなはち 其地そこの なづき田に 匍匐はらばひ廻もとほりて、 |
そのほとりの田に 這い廻つて |
哭爲 歌曰。 |
哭みねなかしつつ 歌よみしたまひしく、 |
お泣きになつて お歌いになりました。 |
那豆岐能 | なづきの | 周まわりの田の |
多能伊那賀良邇 | 田の稻幹いながらに、 | 稻の莖くきに、 |
伊那賀良爾 | 稻幹いながらに | 稻の莖に、 |
波比母登富呂布 | 蔓はひもとほろふ | 這い繞めぐつている |
登許呂豆良 | ところづら。 | ツルイモの蔓つるです。 |
2八尋白智鳥の歌 |
||
於是化 八尋白智鳥。 〈智字以音〉 |
ここに 八尋白智鳥しろちどりになりて、 |
しかるに其處から 大きな白鳥になつて |
翔天而 | 天翔あまがけりて、 | 天に飛んで、 |
向濱飛行。 |
濱に向きて 飛びいでます。 |
濱に向いて 飛んでおいでになりましたから、 |
爾其后及御子等。 | ここにその后たち御子たち、 | そのお妃たちや御子たちは、 |
於其小竹之 苅杙。 |
その小竹しのの 苅杙かりばねに、 |
其處の篠竹しのだけの 苅株かりくいに |
雖足䠊破。 | 足切り破るれども、 | 御足が切り破れるけれども、 |
忘其痛以哭追。 |
その痛みをも忘れて、 哭きつつ追ひいでましき。 |
痛いのも忘れて 泣く泣く追つておいでになりました。 |
此時歌曰。 | この時、歌よみしたまひしく、 | その時の御歌は、 |
阿佐士怒波良 | 淺小竹原あさじのはら | 小篠こざさが原を |
許斯那豆牟 | 腰こしなづむ。 | 行き惱なやむ、 |
蘇良波由賀受 | 虚空そらは行かず、 | 空中からは行かずに、 |
阿斯用由久那 | 足よ行くな。 | 歩あるいて行くのです。 |
3那豆美行時の歌 |
||
又入其海鹽而。 | またその海水うしほに入りて、 | また、海水にはいつて、 |
那豆美 〈此三字以音〉 行時歌曰。 |
なづみ 行いでます時、 歌よみしたまひしく、 |
海水の中を 骨を折つておいでになつた時の 御歌、 |
宇美賀由氣婆 | 海が行けば | 海うみの方ほうから行ゆけば |
許斯那豆牟 | 腰なづむ。 | 行き惱なやむ。 |
意富迦波良能 | 大河原の | 大河原おおかはらの |
宇惠具佐 | 植草うゑぐさ、 | 草のように、 |
宇美賀波 | 海がは | 海や河かわを |
伊佐用布 | いさよふ。 | さまよい行く。 |
4濱つ千鳥の歌 |
||
又飛 居其磯之時。 |
また飛びて その磯に居たまふ時、 |
また飛んで、 其處の磯においで遊ばされた時の |
歌曰。 | 歌よみしたまひしく、 | 御歌、 |
波麻都知登理。 | 濱つ千鳥 | 濱の千鳥、 |
波麻用波由迦受。 | 濱よ行かず | 濱からは行かずに |
伊蘇豆多布。 | 磯傳ふ。 | 磯傳いをする。 |
大御葬 |
||
是四歌者。 | この四歌は、 | この四首の歌は |
皆歌其御葬也。 | みなその御葬みはふりに歌ひき。 | 皆そのお葬式に歌いました。 |
故至今其歌者。 | かれ今に至るまで、 | それで今でも |
歌天皇之 大御葬也。 |
その歌は天皇の 大御葬おほみはふりに歌ふなり。 |
その歌は天皇の 御葬式に歌うのです。 |
白鳥御陵 |
||
故自其國。 | かれその國より | そこでその國から |
飛翔行。 | 飛び翔り行でまして、 | 飛び翔たつておいでになつて、 |
留河内國之志幾。 | 河内の國の志幾しきに留まりたまひき。 | 河内の志幾しきにお留まりなさいました。 |
故於其地作御陵。 | かれ其地そこに御陵を作りて、 | そこで其處に御墓を作つて、 |
鎭坐也。 | 鎭まりまさしめき。 | お鎭まり遊ばされました。 |
即號其御陵。 | すなはちその御陵に名づけて | |
謂白鳥御陵也。 | 白鳥の御陵といふ。 | |
然亦自其地 更翔天以飛行。 |
然れどもまた 其地より更に 天翔りて飛び行でましき。 |
しかしながら、 また其處から更に 空を飛んでおいでになりました。 |
膳夫の七拳脛 |
||
凡此倭建命。 | およそこの倭建の命、 | すべてこのヤマトタケルの命が |
平國廻行之時。 | 國平むけに廻り行いでましし時、 | 諸國を平定するために廻つておいでになつた時に、 |
久米直之祖。 | 久米くめの直あたへが祖、 | 久米の直あたえの祖先の |
名七拳脛。 | 名は七拳脛つかはぎ、 | ナナツカハギという者が |
恆爲膳夫以。 | 恆つねに膳夫かしはでとして | いつもお料理人として |
從仕奉也。 | 御伴仕へまつりき。 | お仕え申しました。 |